lovely baby -1- 〜oasis〜番外編
後にアテナU号事件と呼ばれる、悲劇の事件。
この時に巻き込まれたのは英国貴族・パーシヴァル一家。
父親と息子は何とか一命を取り留めたが、母親は遺体で発見された。
娘は…乗り込んだ緊急避難カプセルごと行方不明とされた―
少女の乗り込んだカプセルは鉱山の星・フルシーミへと向かう労働者達の宇宙船に回収された。
彼女は意識を取り戻したのはフルシーミに降り立つ寸前。
「ここ…どこ??」
無骨な男たちに囲まれて不安を隠しきれない。
「…フルシーミ星に向かう船の中だよ。」
「!! お願いです! 私を地球に返して!!」
泣き叫ぶ少女に同情の顔を見せるが告げる。
「残念だが…無理だね。」
「え…?」
「この星からは…一般人は出られない。」
「どうして!?」
「人口が少ないからね…軍人以外は出られない。片道しかないんだ。」
非情な宣告に戸惑う。
「そんな…そんなっ!!」
「可哀相だけど…もう帰れない。」
泣き崩れる少女を見て男たちはどうすることも出来なかった。
「もっと人口が増えたら帰れるようになれるかもしれん。
しかし…何年かかるか…」
「!!」
そうこう言っている内に船はフルシーミ星の首都・イナルに着く。
「とりあえずは働かないとな。」
「え…」
「お嬢ちゃん、いくつだ?」
「16歳です。…9月が来たら17歳になります。」
「ありゃ。こりゃ難しいな。」
15歳までならフルシーミの施設に入れるがもう無理。
「何か出来るかな?」
「私、ピアニストの卵です。」
4人の男に順に尋ねられ応える。
「そうか… ならバーかな?」
「そうそう…たしかカクサ村のバーが…歌姫探してたっけな?」
「歌姫?」
思わぬ言葉に驚く少女。
「そう。ピアノを弾いて歌う…ってあんたにピッタリじゃないか?」
「…そこしかないですか?」
「それがイヤなら…ダラゴ村の売春宿だな。」
「!! 解りました…バーに行きます。」
どっちもイヤだったが、身を汚すのはもっとイヤだった。
彼女の選択はそれしかなかった―
***
少女はフルシーミ星に着いた直後から、カクサ村のバーで働き始める。
もう地球に帰れないと思うと辛くて苦しかった。
でも夜のステージでピアノを弾いている瞬間だけが救い―
バーの2階で暮らし始めた少女。
彼女が自分の異変に気づいたのは17歳になった9月末―
もともと不規則だったが丸2ヶ月以上、月経がない。
首都イナルの病院に行くのが怖くて検査薬で調べると………陽性。
(どうしよう…私… どうしよう…そんな…)
悩んでいるうちに年が明けた。
少しずつ大きくなっていくお腹は隠せるはずもなくバーの主人と妻に気づかれる。
妻のメリルは泣き出す歌姫に言う。
「あんたのお腹の子が、レイプされて出来たのか、
好きな男との間に出来たのか…どんな事情は知らないけど、
ここまできたら産むしかないね。」
「!! あ…」
バーの女主人に言われて少女は気づく。
(もうどうせ地球に帰れないのなら…
せめて彼の子供がいればそれだけ生きていける…
あの日の…思い出がここにいる…)
もう年が明けて2084年になっていた…
17歳のファリアはたったひとりで生む決意をした。
自分に宿った命を守りたいと言う思いと…愛する彼の子だと思うとそれだけで愛しさが芽生える。
リチャード
(例え二度とあの人に逢えなくても…この子がいれば生きてゆける…)
それでも彼女はバーで働く。
お腹が目立ち始めたために黒のふわりとしたハイウェストのドレスを着て歌を歌い、ピアノを弾く。
客の男たちは妊婦と言う目で見ていない。
まるで聖母マリアのようだと思う客もいた。
その常連客のひとり・ホセは本気で彼女を愛し始めていた…
***
―1月末
ホセは意を決して、昼にバーの2階の彼女の部屋を訪ねた。
ノックをすると彼女の声が近づいてくる。
「はい?」
ドアを開けた彼女は驚く。
予想外の人物が立っていたからだ。。
「や、フェアリー… ちょっと、いいか?」
「…えぇ。どうぞ。」
部屋に通されると質素な中にも彼女らしさが窺える。
木のベッドに、ドレッサー、身代には黒のドレスが飾られている。
今の彼女に合わせてあるため若干大きめのもの。
「お茶でも淹れますね。」
部屋を出て階下の厨房に行こうとする彼女を呼び止める。
「いや。いい。それより話がある。」
彼女の前に立ち、じっと瞳を見る。
ホセは鉱山で働く男らしくガタイのいい男。
どちらかというとハンサムと言うより…ゴツい体育会系。
「あの…フェアリー… 俺と結婚してくれ!!」
ストレートに口にする。
目の前の彼女は驚いているのが手に取るように解る。
「…え?」
「…その… お腹の子も…俺の子として育てるつもりだ。
子供にゃ、父親が必要だ。 …だから…」
「この子に父親?」
お腹を押さえる乙女。
「そう。男の子でも女の子でも父親は必要だ。それに…
俺が君を必要としている。」
「私…」
(考えてもいなかったわ… 彼以外の男からのプロポーズ…)
真剣な眼差しで瞳を覗き込まれ、肩を掴まれる乙女。
「な、俺と結婚しよう。」
「…。」
静かに瞳を閉じ、考える。
「一日、お返事待ってください。」
「え?」
「考えさせてください。」
「…そりゃそうだよな。 …突然だし。
解った。 明日、また来るよ。」
「…えぇ。」
ホセは多少不安そうな顔で部屋を出て行く。
断られるの覚悟で言ったのは事実。
それが答えに時間が欲しいと言われたのだ。
多少、期待してしまう。
乙女の心の中で答えは決まっている。
"No"だ。
ただ断る理由をどう説明しようか考えていた。
***
翌日 ―30日
昨日と同じ時間にホセは来た。
「…ホセ。お気持ちは嬉しいけれど…返事はNoよ。」
きっぱりと告げた。曖昧な返事は返って期待を持たせるだけだと解っていた。
「何故だ…? ひとりで育てるつもりなのか?」
「そうよ。」
「父親が必要だ… ひとりでは大変だぞ。」
「解っています。」
「なら…」
「私、この子にニセの父親を与えたくないのよ。」
「…ニセの父親?」
「そう。私が…真実愛した彼が父親。彼以外は必要ない。」
瞳を伏してそう言った乙女をじっと見つめる男。
「フェアリーに必要なくても、子には必要だぞ!?」
「私が父親もするからいいの。」
「…!?」
「逆にあなたを父親と信じきって育ってしまってから…本当の父親が別にいると知ったほうがショックだわ。
だから…」
「俺は必要ない?」
「そう。ごめんなさい。 それに私も…夫は彼としか思ってないの。」
「…そんなに惚れているのか? その男に?」
「…えぇ。 逢えなくても…愛してるわ。」
がっくりと肩を落とすホセ。
「すまなかったな…フェアリー。
しかし…結婚できなくても、俺はフェアリーを助けたい。
それくらいは…させてくれるよな?」
「…ありがとう、ホセ。
それに解ってくれて。」
「いいや。俺が勝手に惚れちまったんだ。
無理強いは出来ないよ。」
「…ごめんなさい。」
「もう、謝るな。これからも、客として同じ村の人間として…よろしくな。」
「えぇ…」
悲しい笑顔を見せる彼女にわざと声を立てて笑いながら去っていく。
この日―
彼女の愛する青年…リチャードの18歳のバースディ。
ファリアは仕事の後、ひとりで小さなケーキにろうそくを立て、お腹の子と共に祝う。
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(2005/6/28)
To Love Sick
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