favor -1- 学院内で仲の良い許婚同士で有名な二人― リチャード=ランスロットとファリア=パーシヴァル。 高等部に進学した直後のそんなふたりに嵐が起こる… * ファリアは音楽部に所属し、主にハープとピアノで活躍している。 次の定期演奏会ではピアノ担当と決まった。 レッスンしようとピアノルームに行くと男子生徒の姿。 先輩で3年のギルバート=ローレンス。 少し遠慮がちな笑顔を向けられる。 「ごめん。Missパーシヴァル。 …ピアノ担当さ、僕に変わったんだ。」 「え?」 「君にハープを担当してもらいたいんだ。だから。」 突然のローレンスの言葉に驚くが、ウソをつく人でもない。 「…キャンベル先生のご指示なんですね?」 「あぁ。」 音楽部顧問キャンベルの指示なら仕方ない。 「…解りました。譜面は置いてますからどうぞ。」 「ありがとう。」 笑顔でローレンスはピアノに近づく。 「私…ハープのトコに行きます。それじゃ。」 ファリアはハープの置かれている第3レッスン室へと向かう。 途中、不意に気づく。 「あ、いけない。ハープのパートの譜面ないわ… 図書館に行って来なきゃ…」 黒髪を揺らし、図書館へと駆けてく。 男子部女子部共同で、中等部高等部の生徒が使う大きくて古い図書館。 4階建てで色々な施設を抱えている。 蔵書も多く、大学図書館並みで教師達も活用していた。 ファリアは司書のMissエンドーに声を掛ける。 中等部の頃からずっと親しく話していいる間柄。 少しボーイッシュな外見で気さくなためか、 何人かいる司書の中で一番若い女性なので人気もある。 「こんにちは、Missエンドー。」 「あら? 今日は部活じゃなかったっけ?」 少女のピアノ演奏が好きな司書は笑顔で問いかける。 「実は急にハープ担当に変わっちゃって… 譜面がないから…」 「あ、そうだったの? 場所解る?」 「えぇ。4階の左手奥よね?」 「そうよ。」 「じゃ、行って来ます。」 少女はMissエンドーに笑顔を残して4階へと階段を上っていく。 目的の譜面は4階の薄暗い本棚の並んでいる一番奥。 「えっと…」 譜面を手に行こうとすると人の話し声がした。 「誰かいるんだわ。珍しい…」 めったに人の来ない、譜面が置かれている書棚。 行こうとしたその時、不意に耳に入る。 「あ、ん… ランス…ロット、くぅん…」 鼻にかかった甘い女の声。 「え…?」 (ランスロット君って… リチャードのこと?? 何で……???) 嫌な予感がするが見つけてしまう。 右奥のいちばん壁際で男子生徒と女子生徒が濃厚なキスをしている。 男子生徒の後姿を見て気づく。 (やっぱり… あの背… リチャード?? うそッ!!) 女子生徒の手が背に回り抱きついている。 (嘘…!! うそよッ!!) ファリアは逃げ出すようにその場を離れた。 「どうしたの?」 1階まで来るとMissエンドーに声を掛けられる。 息は上がっており、涙が滲んでいた少女。 「…ううん。なんでもないの。 ホコリが目に沁みたの。」 「そう?」 譜面を渡し、コピーしてもらう。 「私が返しておくから行っていいよ。」 「…ありがとう、Missエンドー。… いつもごめんなさいね。」 「いいのよ。あなたの演奏楽しみにしてるんだから♪ ほら、早くレッスン行っておいで。」 なんとか笑顔を作り、図書館をあとにする。 ひとりになった途端、溜息が出た。 「はぁ…」 何かの見間違いだと信じたかった。 ハープの弦に触れていても、溜息ばかりでレッスンに身が入らない― *** ―翌日 歴史の授業で使う資料を家から持ってくるのを忘れたファリアは図書館へと向かう。 (さすがに…昨日はショックだったけど…もう…ないわよ。 あんなこと…) 2階の歴史資料の本棚で見つけた資料の本を手に1階に戻ろうとすると人の気配。 もう10分もしない内に授業が始まるのに誰だろうと思い見ると… 赤毛の女生徒とキスしてるリチャード― (えっ!? な…なんで…??? どうして…?また…) ファリアは貸し出しの手続きもせずに図書館を飛び出す。 (何で…リチャード…?? どうして…どうしてなの??) 涙が溢れて止まらない。 授業が始まってしまうが戻らなかった――― 放課後、ひとりでハープのレッスンに取り組むが手が動かない。 (無理だわ… 私…) 顧問の教師に体調がすぐれないからと早退を申し出て、早く帰宅する。 ベッドの上で泣きながらアレコレ考えてみるが 彼を信じたいという思いと 彼の気持ちが解らないと… ひとり苦しんでいた。 そんな時に限ってリチャード本人からの電話。 彼の声を聞いた途端、明らかに心配しているのが解る。 「ファリア…? どうしたの? 音楽部と掛け持ちのマルティン先輩から聞いたんだけど… 早退したって… 大丈夫か? 無理するなよ。」 「ごめんなさい。心配かけて。ちょっと調子悪かっただけよ…」 本当は図書館で見たことを尋ねてみたいが、怖くて喉の奥で止まっている。 「大丈夫だから… わざわざ、ありがとう。」 「そう?? なら、いいけど…」 彼に言いたかった言葉を飲み込んだせいか、 余計わからなくなっていた。 * 次の日、学校に行くと朝から少し騒がしい。 「ねぇ、ファリア。大丈夫?」 クラスメイトのシャーロットとデイジーが話しかけて来る。 「え…?」 訝しがるファリアを見て、シャーロットたちは顔を合わせる。 「ねぇ、ひょっとして知らなかった??」 「何のこと?」 「知らないほうが…」 シャーロットは少し悲しい笑顔で、デイジーも同様。そこへ親友のリズも来る。 「…リチャードのこと? 何かあった?」 思い当たるふしがあるだけに思わず口から出てしまう。 答えたのはシャーロット。 「あ。うん…実はそう。」 「一体、何?」 「その…あのね… 驚かないで聞いてよ。 ランスロット君がね、3年のレイチェル=オブライエンとセシル=ポートビーと… キスしてたって、図書館で。」 「!?」 確かにあの時に見た赤毛の感じは3年のレイチェル先輩だと思い出すが 1回目の女生徒はセシル先輩に見えなかった。 (そんな… 3人も…!?) ショックのあまり呆然とするファリアにシャーロットとデイジー、リズが声を掛ける。 「大丈夫? 顔色悪いわよ…」 「うん。ごめん、ありがとう。」 返答からしても少々パニックに陥ってるのが解る。 「今日は帰れば? 辛いでしょ?」 「ううん…平気よ。たぶん何かの間違いよ。」 健気に3人に笑顔を見せる。 「…なんでファリアみたいに奇麗で可愛い許婚がいるのに なんであんな年増ばっかり相手してるのかなぁ…」 「そうよね。ファリアに失礼だわ。」 リズとシャーロットがつい呟く。 「やめて。」 「「え?」」 「彼の悪口言わないで。」 「ファリア…あなた…」 彼女の発言からその想いを悟る3人。 「…ごめん。」 リズが申し訳なさそうに謝る。 直後、教師が教室に現れて、朝の挨拶をして席につく。 みんなに心配かけまいと授業を受けるが、元気はなかった――― to -2- __________________________________________________ (2005/9/25) *あとがき* 実はここに出てくるMissエンドーですが日本人です。(笑) というのも、高校時代図書委員を2年半ほど勤め上げたのですが その時散々、お世話になった方が遠藤さんでした。。 図書館が舞台なので…つい出させていただきました。 (2006/2/19追記) (2015/05/06 加筆改稿) to Love Sick Menu |