angel charm 01




その年の夏の全国大会は東邦学園が優勝した。

しかし負けた南葛も精一杯頑張った。
岬に苦しめられながらも日向は優勝を勝ち取ったのだ――

そして大会直後から選抜選手の強化合宿が始まる。
2年前の夏と同じように海外での試合のためであった。

10日間の合宿の後、全日本18名と監督見上と片桐は一路ヨーロッパへと飛んだ。



一方その頃―――
篠原薔子ことローザ=ブラッドフォードはパリを中心にモデルとして活躍。
モデル業のかたわら、医学を勉強していた。




全日本はドイツから入りスイス、イタリアと回って練習試合を重ねていた。
一応勝ち越してはいるもののメンバーのコンディションはあまりよくなかった。

イタリア・ナポリにて地元のチームとの練習試合が控えていた。

到着の翌日に試合のためこの日は休養日とされていた。

日向は身体がなまると思ってホテルを出て歩く。
さすがにボールを蹴っての移動は脚に負担をかけるということを理解してのことだった。



町の外れまで来ると地中海が見えた。
美しいエメラルドグリーンの海を初めて見た日向はしばしその風景に見とれている。

「ガラじゃねぇよな…」
ひとりごちて再び歩き出す。

見慣れない風景、人。
異国の町ということを実感する。

2年前に出会った自分と違う瞳の少女を思い出す。
でもその唇から飛び出たのは流暢な日本語。
何故か気にかかる存在。

日本に帰った直後、その少女が日本人として東邦学園中等部に現れたときは
ただ驚くしかなかった―



あれが初恋だと気付くのに時間がかかりすぎた。

思いを告げることなく彼の初恋は終わった―
はずだった。


再び二人の絆が絡み始めたことをまだ誰も知らない―





日向は海岸沿いを歩く。
白い砂浜は目に少し眩しい。

行き先でなにやら人だかりが出来ていた。
野次馬根性はあまりない日向は普段、そういうところに近づかないが
めったに来ない外国。
つい近づく。



するとそこでは写真撮影をしてる。
美しい外国人の女性がポーズを取っていた。


その顔に見覚えがあった。
彼の初恋の相手― 篠原薔子ことローザ。

日向は自分の目を疑ったが間違いなく彼女本人。
しばし見ていると撮影が終わった。


ローザがふと視線を上げる。
日向としっかり視線が合う。
彼女も驚いているのが解った。

周りの人だかりを追い払い、日向に近づく。


「… 久しぶりね、日向小次郎。」

1年4ヶ月ぶりのその声。
少し背が伸びたようだ。
白い胸元がまぶしい。
動揺しているのを悟られまいと冷静を装う。

「あぁ、お前も元気そうだな。」

「そう?それより東邦、優勝したんですってね、おめでとう。」

「何で知ってるんだ?」

「あぁ、弟の彬からメールが来るから。」

「そっか。」

わずか1ヶ月しか誕生日の離れていない腹ちがいの弟・彬。
薔子を理解している数少ない人間。
彼はまだ東邦に在籍している。


お互い少しの沈黙。

ローザに声をかけてきたスタッフ。
少しの会話の後、日向に日本語で告げる。

「ねぇ、全日本がいるホテルってSunMarcoよね?」

「あぁ、そうだけど?」

「後で行くわ。見上さんによろしく言っておいて。
ローザが来るって。」

「え?」

「じゃ、頼んだわよ!」

笑顔で彼女は撮影スタッフの元へ向かう。
黒いライトバンに乗ってその場を去る。
何がなんだかわからない日向が残されていた。



とりあえずホテルに戻った日向。

見上監督の部屋に行き、彼女の言葉を伝える。

突然の訪問にもかかわらず見上監督は笑顔で日向を部屋に入れた。

彼女の言葉どおり、伝言を伝える。

「そうか、やっと来てくれるのか。」

「はぁ?  …どういう事なんですか?」

「いや、実はメディカルコーチを頼んだんだよ、彼女に。」

「メディカルコーチって…」

「こう負傷者が多いとチームとしては大問題だ。
本当は本職の医者に来てもらいたかったのだが、日本語のわかる医者がいないと言われてね…」

「で、なんでアイツが?」

「ローザは今、スポーツ医学を勉強している。」

「そ、そーなんっすか?」

「一応、年齢が足りないということで正式の医者ではないが…
彼女ならサッカーにも詳しいし、日本語も解るからな。
…おや?そういえば日向とローザは知り合いだったな?」

二人が会っていたときを見上だけは知っていた。

「一応、2年前の夏に会ってますよ。
(ローザとしてな…それだけじゃないけど…)」

「モデルの仕事があるから明日から合流するってことだったが
今日から来てくれそうだな。助かるよ。
なんせ私も片桐もイタリア語はわからんからな。」

「アイツ、しゃべれるんですか?」

「あ、そうだが… 確か9ヶ国語くらいしゃべれたはずだ。」

「そうなんですか… そろそろ俺、 部屋に戻ります。」

「あぁ、明日の試合のために休んでくれ。」

「はい、失礼します。」





日向は部屋に戻る廊下を歩いている最中、
今日の彼女を思い出していた。

モデル然としていてキレイだった。

淡い茶色の髪。
白い胸元。
艶やかな唇。
大人っぽい洋服を着ていた。
1年4ヶ月前より身体も大人っぽくなっていた。
―男がいるのかもしれないな…

そう思えるほど。



しかし消えかけていた恋心が再び燃え上がるのに時間はかからなかった。





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(2005/2/19)