whisper



その日のデスキュラとの戦闘は何時にも増して激しかった。


「オルガニックフォーメーション、発射ーっ!」


進児の掛け声と共に粉砕されるデスキュラの巨大ロボ。

超絶的なパワーで破壊される。




「ひゃー…なんとか勝てたな〜」

デスキュラ巨大ロボの破片が散らばっているのを見てビルが呟く。


「あぁ、ちょっと強敵だったな…」

進児も少し疲れを見せていた。

ビスマルクは母艦へと変形する。



「はー…やっと休めるぜ。」

「そうね。」

進児、ビル、マリアンは背伸びしたり肩を鳴らしながらコクピットを出る。
リチャードがひとりコンソールシートに残っていた。


目の前の敵メカの残骸を分析していた。

そのあと、ビスマルクマシンに異常がないかをチェックする。



「それにしても…リチャードのヤツって働き者だな〜。
日本人以上じゃねーの?」

「真面目なんだろ…」

ビルと進児がそんな会話をしながら3段ベッドの自分たちの部屋に入る。




「!!」

二人は部屋の惨状に気付く。
部屋内には3人の持ち物が散乱していた。

「な、なんだよコレ〜!?」

ビルが呆気にとられた後、叫ぶ。

「どうやら戦闘のせいで部屋の中が無茶苦茶になったみたいだな…」

「前はこーはならなかったぜ?」

「重力制御かなんかが故障してたんだろ? 仕方ない…
片付けるか。」


おっくうそうに進児は足元に転がるものから手に取る。

「これは俺の…」

仕方ないといった感じでビルも片づけを始める。

3人の私物がごっちゃになっていた。




「あ、これ…進児のか?黒髪の女の子って事は…初恋の相手とか?」

ビルが手に取ったのは黒髪の少女の写真が入ったフレーム。

「へ?俺のじゃないぜ?」

進児も覗き込む。

アンティーク風のフレームの中に はにかんだ笑顔の黒髪のローティーンの少女。
日本人でないことに進児は気付く。

「おいよく見てみろよ… この女の子、瞳がすみれっていうかブルーっていうか…」

「ホントだ。で、お前さんのじゃないのか?」

「あぁ。  …ってことはリチャードのか?」

「多分な…」

ビルはひっくりかえしてフレームの裏を見る。覗き込む進児。


"2078/9/1 12-year-old birthday/Lorain castle garden"
("2078/9/1    12歳の誕生日/ローレン城庭園にて")



「ローレン城?」

進児が不思議そうに言う。

「とりあえず 進児のでも俺のでもないんだから、ヤツのだろ?
あいつ…ロリコンだったのか?」

ビルが意外な言葉を吐く。

「バカ。よく見てみろよ。2078年に12歳って事は、リチャードと同じ年だろが。」

「あ、そっか。でもなんでこんな写真?」

「さぁな。 とりあえずリチャードのところに置いておこうぜ。」

「そうだな。」



**********

深夜になってやっとリチャードが戻ってきた。

その頃には疲れていた進児はぐっすり眠っていた。

うす暗い室内の3段ベッドの上段に上がろうとしたリチャード。
ふいに明かりが灯る。

「すまん、起こしたか。ビル。」

「いや、ちょっと眠れなくてよ…」

「そうか。」

下段の進児は明るくなったのにもかかわらず爆睡していた。

「実はさ、俺たちが部屋に戻ってきたら、俺たち3人の私物が散らかってたんだ。
で、とりあえずお前さんのものは上にあげておいたぜ。」

「そうか、すまなかったな。 
…何か言いたそうな顔をしてるな、ビル?」


リチャードは少々怪訝そうな顔をしているビルに問いかける。

「あ、あぁ。 実は進児と二人で気付いたんだけど…」

「ん?何だ?」

ビルは例のフレームをリチャードに差し出す。

「この…写真の女の子、誰だ? 同い年なんだろ、お前さんと。」

ビルからフレームを手渡されるリチャードは切れ長の目を細め、見つめて受け取る。



「ビルに話しておいてもいいか…」

「何だ?」

「この女の子のこと。」

「何か事情があるんだな?」

うなずくリチャード。

「あぁ。… ここでは進児が寝ているからダイニングに行こう。」

二人は連れ立ってダイニングへと向かう。




二人はソファに向かい合って腰を下ろす。

「この写真の女の子はな… 僕の許婚だよ。」

リチャードの口から思いかけない言葉を聞いたビルは驚く。

「え…!? 許婚ってことは… 婚約者?」

「まぁ、そうだ。
実は彼女は…5年ほど前の”アテナU号事件”で行方不明になったんだ…」


さらに驚愕の事実を聞かされる。

「へ…!? って… え? あの”アテナU号事件”か?」

「そう、乗客乗員の約半数が行方不明になったあれだよ。
彼女の一家4人のうち、父親と弟は生きて発見された。
けれど…母親と本人は…」

言葉を詰まらせるその様子にビルは初めて見るリチャードの表情に戸惑う。

「彼女は…行方不明になって…」

「そうだったのだか。 辛いことを思い出させてすまない。」

申し訳なさそうビルは謝罪する。

「いや、いいんだ。忙しさにかまけて彼女のことを忘れる時がある。
でも僕は…近い将来 彼女を探しに行きたいと思っている。」

「…え?!」

ビルはリチャードの言葉に目を見開く。

「行方不明なだけで… 生きてると僕は信じてる。」

「そっか…
それにしても許婚って事は、リチャードの家柄からして政略結婚なのか?」

ふと疑問に思ったことを口に出す。

「まぁ  そう思われても仕方がないけど… 僕はまだ彼女に恋してるよ。」

「…!!」

今までそんな言葉を彼の口から聞いたことのなかったビルは本気で驚く。


しばらくの沈黙の後、彼は席を立つ。

「すまない。しばらく独りにしておいてくれ…」

そう言ってコクピットへと戻ったリチャードを見送る。




ビルはリチャードの心の内を初めて知った―

彼にも失った大切な人がいることを―







コクピットでひとり星空を見上げるリチャード。

(すまない… ファリア。 
君を忘れたわけじゃない。
 
僕は…今も君に恋してる…
だから、待っていてくれ。 きっと見つけ出すから。

君がどんなに変わっていても―)



リチャードの拳は硬く握り締められていた―――――




END

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(2005/4/15)
あとがき

つい5日位前に湧き出たお話です。

最初は進児に告ってたんだけど、昔にかいていたので
ビルにしてみました。

これで3人それぞれにちがうシーンでの告白(?)です。

あはは。



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