tightly love




ヘルペリデスからルヴェール博士を無事に救出する事が出来たビスマルクチーム。

マリアンの喜びもひとしおの中、火星基地におかれた連邦軍本部に送り届ける事が出来た。

ビスマルクチーム4人には待機命令が出る。



ルヴェール博士が戻った直後、デスキュラのヒューザー総統から和平を持ちかける通信が入ったからだ。
すぐあとにペリオスが全権大使として派遣されてくる。


ペリオスを代表とした和平交渉の結果、
ビスマルクマシンの解体、そしてチームの解散が決定。



もちろん、一番ヤツを知っているビスマルクチームは納得がいかない。
けれどルヴェール博士に「命令」とまで言われチームは解散に追い込まれる。



4人は地球の連邦本部でのビスマルクマシンの解体に立ち会うためにマシンに乗り込む。




ダイニングで険悪なムードを何とかしようとビルが話し出す。

「俺さ〜、地球でジョーンと会う約束してるんだ〜v」

すっかり鼻の下を伸ばしている。


「いや〜、俺は幸せモンだなぁ〜 お前らもHappyか〜?」


3人は呆れた様子。


「…まぁな…」

何とか返事したのは進児。

「進児君、君はマリアンと仲良くな〜☆」

「もう…ビルったら…」

マリアンは嬉しげに頬を染めている。
上機嫌のビルを止める手段はない様に思えた。

「問題は…リチャード、お前だよな。
シンシアを迎えに行ってやれよ〜♪」


いやに真顔でリチャードは返事した。

「…いや、行けないよ。」

予想外の応えに3人は戸惑う。

「「「は?」」」


「何で??」

素朴な疑問をビルはぶつける。


「…何でと言われても…(汗)」

「シンシアの事、好きじゃないの?」

「確かにあの時は…気持ちがなかったわけじゃないさ。
けど…あの子じゃ、僕の恋人になれても、ランスロット家の女主人にはなれないさ。」

「なんだ〜? ソレ?」

「3人も知ってるだろ? 僕が家の跡取りだって。」

「あぁ…」

進児が神妙な面持ちで応えていた。

「僕の家は1000年以上の伝統と格式を誇るランスロット公爵家。
幼い頃から言われ続けている…
  "貴族の令嬢と結婚しろ!"とね。
事実、僕には許婚がいる。」

「「はぁ〜!?」」

進児とビルが叫ぶ。
テーブルの向かいのマリアンの態度に気づいて突っ込んだのはビルだった。

「ちょっと待て…   マリアン、なんで反応しねぇんだよ?」

「だって…」

「…マリアン、君は知っているんだろう?
チームメンバー選出の時に僕のデータも見てるはずだし。」

「何だよ、ソレ?」

「何か知ってるのか? マリアン?」

横のマリアンに問いかける進児。

「う…うん…」

「君の口から言わなくていいよ。」

「何だよ? 許婚がいるって話なんだろう?」

ふっとリチャードの顔に影が降りた。
その様子に3人は訝しく感じる。


「…僕の許婚は…2年前の7月に起きた"アテナU号"に乗っていた…」

「!? 確か俺の親父とお袋の事件の翌日の…!?」

「あぁ…彼女は…緊急脱出用カプセルに乗り込んだ事が確認されているが…
発見されなかった。」

「!?  …じゃ…」

「しかし彼女の父親と弟は無事に発見されている。
母親は遺体で発見されたがね…」

「「「!?」」」

「僕にとっては許婚と言う名の恋人を失った…
いや行方不明なだけと信じてる。」

「「「ヘ???」」」

「彼女は死んでない。何処にいるか解らないだけだ。」


悲痛な面持ちで話すリチャードに進児は呟く。

「リチャード… お前…」

「ちょっと待てよ。恋人って言ったよなぁ…
で、許婚ってコトはその人も貴族??」

「そうだ。彼女は…
パーシヴァル公爵家令嬢で、現女王陛下の姪にあたる。」




ふっとビルが思い出したように言う。

「って、え? あ。思い出した…
俺、両親の事件の関連記事をよく見てたんだけど…
確か数少ない生還者で…"悲劇の伯爵・帰国!"
とか、書かれてなかったっけ?
…え?伯爵?」

「そう。彼女の祖父があのころまだ現役の公爵でね、父親が伯爵。
今年になって引退されて…爵位を譲られた。」

「げ?! ってコトは… おまえンちもすごいけど、彼女ンちもすごいってコト?」

「まぁ…そういうことだ。
貴族としての格はパーシヴァル家のほうが上だからね。」

「…リチャードってホントはすごいヤツなんだな。」

感心したようにビルが呟く。

「僕が凄いんじゃない。家が貴族なだけさ。」



「じゃ…シンシアは?」

マリアンが淋しげに問う。

「…連れて帰っても、恋人にしかなりえない。
正式な妻は… 貴族の令嬢しかなれないからね。」


「…でもよ、その婚約者の彼女…言いたかないけど、死んでるんじゃ…」

「…死んでない。」

「どうして言い切れる?」


瞳を伏せてリチャードが言う。

「…まだ夢に出てくる。」

「「「はぁ?」」」

「どーゆー根拠だよ!?」

「18歳になった彼女が… 助けを求めて泣いてる…」

「それって"妄想"って言うんじゃねぇのか?」

「…いや違う。 きっとあのカプセルに乗ったまま、
彼女をそのまま連れ去ったに違いない。」

「何で?」

「…世間一般の男なら誰でも彼女を欲しがる。
女王陛下の姪・パーシヴァル家令嬢ということを外しても。」



「…美少女なのか?」

鋭い突っ込みはやはりビル。

「え… あ…一言で言うとそうだな。」

「マジで?」

「な、写真とかないわけ?」

進児が好奇心に満ちた目で問いかける。

「…見たいのか?」

「そりゃ…ま。」

「俺なんか、女の子に声掛け捲ってるし
何処かで見かけてるかもしれないだろ?」

「…ま、いいか。」


リチャードは内ポケットから赤い手帳に挟んでおいた写真を出す。


言い出した進児に渡すと2人が覗き込む。

「へ〜…」


淡い薔薇色のドレスに身を包み、頭上には豪奢なティアラ、
はにかんだ笑顔でリチャードの横に立つ黒髪の乙女。

「ひょえ〜…確かにキレイな子だなぁ〜。」
「ホントに美人だな。」
「…」


マリアンは少し羨ましそうに見ている。

「彼女のデビューパーティの時の写真だよ。
ちょっとメイクしてるから…」

「え? デビューパーティ?」

マリアンが問いかける。

「彼女が16歳の秋に英国社交界にデビューしたんだ。
その時のエスコートが僕。」

「うわあ。さすがお貴族様!!」

叫んでしまうのはやっぱりビル。
その横でマリアンは彼女ではなく写真のリチャードを見ていた。


   (なんだか… このリチャードの笑顔…
    私達が見たことない感じ…
    こんな顔、初めて見た…)


そしてじっくりと乙女のほうを見るマリアン。

「彼女のドレスとティアラ、素敵ね〜。」

「ティアラは公爵家代々に伝わる逸品で、
ドレスは王室御用達のデザイナーが彼女の為に…」



しばし3人が見入っていた。
リチャードは黙ったまま、写真の彼女を思い描く。


   (ファリア…君は 今、どこでどうしているんだ…?)




「で、リチャード君はこの美少女が忘れられないと。」

ビルが悪戯っぽい瞳で笑顔を向ける。

「忘れられないというより… まだ僕は… って
何処まで言わせるつもりだ?ビル?!」

「ははは…」



ひとしきり笑った3人。
その中でリチャードは赤面していた。


「でも何で、生きてるって思えるんだよ?」

「僕だけじゃない。彼女の父親もそう思ってる。」

「ふ〜ん、生きて再会出来るといいな。」

ビルが意外な言葉を掛けてきた。

「…ありがとう。でも時々、不安になる。」

「何で?」

「…誰か他の男のモノになってやしないかって…」

「確かにあんな美人じゃな…」





地球に近づいた事を知らせるコールサインが入った。
4人はコックピットに向かう。

「大気圏突入、スタンバイOK。」

進児の操縦で母なる星・地球へと。




   *




待機中の彼らは本部基地内の宿泊施設に泊まることに。。



リチャードはその夜、ファリアの夢を見た。

幸せに満ちていた5日間…   二人だけの甘い時間―





「はっ!?」


ベッドで目覚めた彼は大きな溜息をつく。

「… 一体何処に… ファリア…

あの日を想い出にしたくない!!
もう一度、君にキスして…抱き締めたいよ…


ファリア…


ファリアッ!!       」


彼の叫びは部屋に虚しく響いていた…













   *****




 バーでのステージを終え、店の片付けの手伝いを済ませた 
バー&ダイニング<P&M>の歌姫・フェアリーことファリアがいた。



バーの2階の自室で黒いステージ用のドレスから夜着に着替え、鏡を覗き込む。
少し寂寥感を漂わせた美貌の歌姫―


ふいに名を呼ばれた気がしてドアを見る。
人の気配はない。

「誰も…いないわよね…。」


溜息をついてベッドに入る。
目を閉じるとまた呼ばれた。


   
「ファリアッ!!」


先ほどより鮮明な声。

思わず身を起こし、見回す。


「…リチャード…?   まさか…」



かぶりを振って再び横になる。

「幻聴よ…
彼はきっと…私は死んだと思ってるはずだわ。

幻だわ…

まだ、あの人に恋してるから…」




孤独という名のベールを纏った歌姫は静かに目を閉じた。






運命の輪が再び動き出していると知らずに―――――






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(2005/8/21)
(2005/8/22ちょこっと加筆)


*あとがき*
ぶっちゃけ、次作へのプロローグちっくなのを目指してみました。
一気に書いて、一気にUPです。
これ、書いた後、うっすらとジンマシンが出ました。
まただよぉ〜(涙)




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