sourire
ビスマルクチームが結成されて約2カ月が経とうとしていた――――
4人は時折、衝突しながらも、絆を深めている。
その日のデスキュラとの戦闘はいつにもまして激しかった。
巨大ロボと対峙し、決着がつくまで、苦戦を強いられたから。
「オルガニックフォーメ―ショーン!! 発射――っ!!」
進児の掛け声とともに放たれる大量のビーム砲。粉砕されていくデスキュラ巨大ロボ。
しかし、ビスマルクマシンもズタボロに傷ついていた。
4人は何とかセントラルシティの本部基地に帰りつけた…
*****
「4日もかかるんですか!?」
進児の声がフロアに響く。
「えぇ。」
返事をしたのは整備の最高責任者でもある技師エルロン。
4人は顔を合わせる。
「そりゃ、あんだけ激しく戦ったからなぁ… 仕方ねえんじゃねえか?」
ビルの言葉に進児は溜息を洩らす。
「…確かにそうだな。今までにない激しさだったしな。
すみません。よろしくお願いいたします。」
進児はエルロンに向き直って、頭を下げた。
「解りました。」
彼の態度に真摯に応える。
そこにリチャードが1歩前に出た。
「あの、僕に手伝えることありませんか?」
「え?! あなたがですか?」
エルロンは眼鏡越しに見る、金髪の青年を見上げる。
「僕は電子工学の博士号も持っていますし…
それにビスマルクマシンの日常のメンテは僕のインテリジェンスシステムですからね。
整備と内部構造をこの機会に少しでも学べればと思いますし。」
彼の申し出にエルロンは一度目を閉じるが、開けると口を開く。
「そうですね。解りました。
ではこれからドッグの方に。」
「はい。ありがとうございます。」
エルロンと行こうとしている彼に進児が言う。
「じゃ、リチャード。俺たちは宿舎で休んでるからな。」
「あぁ。」
3人は宿舎へと向かう。
リチャードだけがビスマルクマシンの内部構造の事を知りたかったのもあって、
ドッグへと。
丸2日間、何処に問題が発生しているのか、何処を強化すべきかと
技術者たちと議論していた。
3日目になってやっとリチャードが宿舎に姿を現す。
「よ。リチャード。 なんか久しぶりだな。」
「あ、そうだな、ビル。」
宿舎のエントランスで会ったふたり。
「お前、身体を休めといた方がいいんじゃね?」
「技術者の何人かにもそう言われてね、だから休みに来たんだよ。」
「そっか。じゃ、俺は出てくる。 進児とマリアンによろしくな。」
手をひらひらと振って、出ていくビルを見送る。
割り当てられた部屋に着くと、意外に疲労感を感じている自分に気づく。
「ふう。」
思わず溜息が出た。
汗を流すためにシャワーを浴びて、着替えてベッドに横になる。
「はぁ…なんかやっとひと心地つけたな…」
呟いた途端、部屋に響くチャイムの音。
――誰だ? 進児か?
そう思いドアを開けると、宿舎の男性職員。
「ランスロットさんにお届け物です。」
「届け物? ありがとう。」
職員に礼を告げて、荷物を受け取る。
――誰からだろう?
箱の伝票を見ると自分の父の名・エドワード=ランスロット。
――え? 父上から?
不思議に思いつつ、ベッドに腰掛け、箱を開ける。
中身はランスロット家シェフ手製のマーマレードの瓶と
ガニメデ星ではめったに手に入らない自分の好きな銘柄の紅茶の茶葉の缶。
それにディスクが2枚。
一番上に手紙が入っていた。
「―我が息子・リチャードへ
元気でやっているか? 毎日、戦いで疲れてはいないか?
仲間たちとの信頼関係は築けているか?
こちらは何も心配ない。
私もメアリも元気にしている。
ファリアは最近、パリ社交界にデビューした事もあって忙しそうにしている。
彼女がロンドンとパリで演奏した時の映像をディスクに入れておいた。
手が空いた時に見るといい。
お前の癒しになればと思う。
ではな。
エドワード=ランスロット 」
――父上、わざわざ…僕のために…ありがとうございます。
父の想いを思うと嬉しいが、切なくもあった。
――それにしても…これはみんなに見せない方がいいな…
進児は15年前に父上を、ビルは1年半前にご両親を失っている…
マリアンのことろは別居だっけな…
僕だけが両親が揃っていて、なおかつ婚約者がいるだなんて…
幸せ者だな。
…淋しい思いをさせているけど。
リチャードは手紙を封筒に戻すと、大事にしているモノの中にしまっておく。
*****
――4日目の朝
なんとかビスマルクマシンの整備と修理は終わった。
「無事、完了いたしました!!」
4人を前に技師たちが敬礼する。
「ありがとうございました。みなさん。」
進児がお礼を述べる。
「僕も勉強になりました。ありがとうございます。」
リチャードも続いて、告げる。
「いえ、いろいろとご指摘や意見をいただき、こちらこそ感謝いたします。」
エルロンにそう言われるのを進児・ビル・マリアンは目を丸くして聞いていた。
「…え?そうなんですか?どこかいじったの、リチャード?」
マリアンがつい、聞いてしまう。
「ちょっとだけな。」
「何したの?」
マリアンの質問に答える。
「インテリジェンスシステムを僕の使い勝手がいいようにマイナーチェンジしたのと、
ビルのオペレーションシステムのミサイルの弾装庫は弾数が増えた。
進児のもマリアンのも少し改良しておいた。」
「マジかよ!?リチャード、すげぇな。」
ビルの驚く声に彼は少し照れくさげに微笑む。
3人は彼の功績を知って、驚きを隠せない。
**
「さ、みんあ。またデスキュラに苦しめられている人たちを助けに行かなきゃな!!」
進児の声に3人は強く頷く。
「また、何かあったらよろしくお願いいたします、エルロンさん。」
リチャードが傍らにいたエルロンに声をかける。
「勿論ですよ。またマシンについてお話しましょう。」
技師や職員たちに見送られて、ビスマルクマシンは基地のドッグから飛び立つ。
人々の平和を守るために…
*****
深夜のコクピットにリチャードの姿があった。
レフトコンソールのシートに身を沈め、例のディスクを観ていた。
パリの演奏はどうやら、高等音楽院でのコンクールの様子。
編入したばかりの彼女だったが、入賞するほど上達したのだと解る。
周りにいるのが、親しくなった学友と言う事が見て取れた。
ロンドンの演奏は皇太子のバースディパーティ。
11月頭にあったはずだと、思い出す。
大勢の名士貴族たちの前で、演奏を披露する彼女。
祖母であるアニー夫人との演奏も楽しげにしていた。
どちらの演奏も素晴らしく、腕を上げたのがよく解った。
ロンドンのパーティ会場はエドワードが自らカメラを持って
彼女のところへと向かった事が判明する。
「やぁ、ファリア。久しぶりだね。」
「あら? エドワードおじ様。 観ていて下さったんですね。」
「あぁ、リチャードの代わりにね。」
「で、おじ様のそのカメラは?」
「リチャードに送ろうと思ってね。
せっかくだから、君からメッセージでもと…。」
エドワードの思惑が解って、ファリアはおもむろにカメラに向かって話し出す。
「リチャード。元気にしていますか?
無茶などしていませんか?
あなたの事だから、食事を抜いちゃったりしてそうだけど…
しっかり食べてね。
あなたが元気な姿で帰ってくるのを待っています…」
切なさを含んだはにかむファリアの笑顔で映像は切れた。
彼女の笑顔で心癒される想いのリチャード。
本人に会って、抱きしめたいとさえ願う…
しかし、地球とガニメデ星は遠すぎた。
「いつ… 君の下へ帰れるんだろうな?」
彼のつぶやきはコクピットに響いていた。
*****
―2日後の深夜
進児がキッチンに水を飲みにやってきた。
ふとコクピットに人の気配を感じたので
誰かと思い覗き込むとリチャードの金髪の後頭部が見えた。
「リチャード。」
いきなり背後から声をかけられ驚く。
「あぁ!? 進児か…」
驚いた彼はシートから出てきた。
「何やってんだ? こんな時間に?」
「マシンのメンテと…個人的な事を、ちょっとな。」
「こんな時間までお疲れさん。 でも個人的な事って?」
ふと進児がコンソールの前のモニターを見ると女性がピアノについて演奏する姿。
どうやらコンクールらしい。
「って、ピアノコンクール?」
「あぁ、まぁな。個人的な趣味だよ。」
「そっか。俺たち昼間は落ち着いて聴いてられないもんな。」
「まぁ、そういうことだ。」
ファリアの紡ぎ出すピアノの旋律が耳に入る。
「綺麗な音だな。」
「…あぁ…」
しばし音に聞き惚れる進児とリチャード。
「リチャード、ほどほどにして休んでおけよ。」
「解ってる。」
「じゃ、先に休むぜ。」
「あぁ、お休み。」
進児はコクピットを出ていく。
リチャードはファリアのピアノの音の余韻を感じて目を閉じた――――
――早く逢いたいよ… 逢って抱きしめて、キスしたい…
彼の願いは当分、叶えられそうにない現実がそこにあった
fin
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(2015/12/06・07)
あとがき
二人の激甘が書きたくなったんだけど…
ネタを探していたら、2年前の原稿が出てきました。
ちょっと違うけど(?) 一気に書いて、UPです…
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