視線で抱きしめて
今夜は英国社交界の名士・ハートン卿のバースディパーティ。
一応、社交界デビューを済ませている私も父や祖父と共に招待されたからこの会場にいる。
彼− リチャードとはまだ正式な婚約発表をしていないただの恋人状態。
知っている人は… 知っているのだけれど。
この会場に勿論、彼もいる。
私の恋人− リチャード=ランスロットはこの英国の…いえ、地球の英雄。
つい先ほど終結したデスキュラとの戦争で一番活躍したビスマルクチームの元一員。
それだけに彼の評価は社交界であっという間に高くなった。
そんな彼の周りには大勢の人が取り巻いている。
彼が評価されているのだからだと頭で理解しているけれど…
すこし淋しい気がする。
なんだか遠い人になってしまったみたい。
私は…王室庁長官の父や貴族院議長の祖父から離れ、
ひとり壁際のソファに腰掛け、シャンパンを口にする。
いわゆる壁の花状態。
そんな私に声を掛けてきたのは今日の主役・ハートン卿。
本日で御年60歳になられた紳士。
「これはこれは… 美貌の公爵令嬢がおひとりとは…」
優しげな笑顔で私の横に腰を下ろしてこられた。
「そんなこと… ありませんわ。ハートン卿。
本日はお招きいただきありがとうございます。」
「いや… 私があなたにお会いしたかったのですよ。」
「え?」
「亡きセーラ様の美貌そのままのご令嬢にね。」
「まぁ…」
私の母は… 王室出身の王女・セーラ。
すでに6年前の事故で亡くなっている。
その母に私はよく似ていると言われ続けていた。
「是非、一曲踊っていただけませんかな?」
「勿論です。ハートン卿。」
私はシャンパングラスをボーイに渡し、
ハートン卿の手に引かれフロアに出る。
60歳とは思えぬスマートな身のこなしと巧みなリード。
長身で広い肩幅に広い胸。
(彼が… 60歳位になったら… こんな感じかしら…??)
卿の肩越しに見える彼の横顔。
私の視線を感じたのかちらとこちらを見ている。
(あ…)
少し切なそうな笑顔。
「どうかなさいましたか?」
ハートン卿の声で我にかえる。
紳士の腕の中で踊っていたのよね…私。
「いえ…何でもありませんわ。」
あの視線に囚われている気がした。
あの視線に…抱きしめられているような気がした。
私はずっと…彼の想いに抱きしめられているのだと―――
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(2005/10/1)
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