Promise |
西暦2076年5月 イギリス・グラントベリーにある居城・ランスロット城では華やかなパーティが開かれていた。 その日は公爵夫人・エリザベスの60歳のバースディを祝うものだった。 英国中の貴族が集まり、盛大なパーティだった。 昼のガーデンパーティは親しい友人が多く、みな会話を楽しんでいた。 その中で夫人の10歳になる孫・リチャードは幼馴染の少女・ファリアと遊んでいた。 広い庭で遊ぶ二人。 それを見かけたエリザベスは声を掛ける。 「リチャード。はしゃぐのもいいけれど怪我とかはしないでね。」 「はい。おばあさま。」 ふと、エリザベスが少女を見る。 「こんにちは。あなたがファリア=パーシヴァルね。」 「こんにちは、はじめましてエリザベス夫人。 本日はご招待いただきありがとうございます。」 きちんと挨拶するファリアを温かな目で見つめる。 美しい父親譲りの黒髪には淡いピンクのリボン。 そのリボンと同じ色のレースがふんだんにあしらわれたワンピース。 可憐で小さい少女がそこにいた。 「いつも あなたのことはリチャードから聞いていますよ。」 その言葉にはにかむ少女。 「おばあさま。もういいでしょ?僕たち温室に行きますから。」 「えぇ。それではね …ファリア。」 「はい。失礼します。」 スカートをつまみ、お辞儀をしてから先に行くリチャードを追いかける。 二人が温室へと駆けていくのを見送る夫人。 9歳という年齢のわりにしっかりした挨拶をする少女を老婦人は気に入った。 しばらくしてガーデンパーティの会場に戻ってきた二人。 紅茶とスコーンをトレイに乗せてエリザベスは二人に近づく。 「どうでした?温室は?」 微笑みかけるエリザベスにファリアは満面の笑みで応える。 「薔薇がとてもきれいでした。」 「僕、見せたかったんだ。あのピンクの薔薇。」 二人の様子を見ていた夫人はくすくすと微笑む。 「おばあさま、なんですか?」 「二人はとっても仲良しなのね。」 「もちろんです。」 「いつも二人一緒なのね…」 「これからもずっとですよ。」 「それじゃ、未来のお嫁さん候補ね。」 エリザベスがぽろっといった言葉にリチャードが反応する。 「おばあさま。 候補じゃなくて、 僕のお嫁さんはファリアです!」 「まあ!」 横で照れているファリア。 3人の周辺の大人たちがその声に驚く。 未来のランスロット公爵が自分の花嫁のことを叫んでいるということに。 **************** その夜 エリザベスは夫・ハロルドに今日の出来事を話した。 未来のランスロット公爵である孫のリチャードの花嫁がファリア=パーシヴァルで 全然問題はないと。 「あの少女はおっとりしているように見えて、しっかりしていますわ。 それに将来は母親のセーラ様に似て美しくなるでしょう… 私はあの娘が気に入りましたわ。」 その言葉を聴いてハロルドは考える。 「確かに…願ってもない良縁だな。 あの娘はパーシヴァル公爵家の令嬢で、現女王陛下の孫娘でもある…」 「でしょう?」 「近々、エドワードにも相談するか…」 老夫婦は大切な跡継ぎの未来の花嫁が大貴族の家柄だということを気にしていた。 同じ公爵家でも今はあちらの方が格は上。 どう出てくるかが心配だった。 うわさでは彼女が生まれた時点で婚約の申し込みがあったという。 しかし祖父であるパーシヴァル公爵と父親の伯爵がそれを許さなかったと。 「少々、前途多難かもな。」 「そうですわね…」 それから半月後 6月の初夏の中でお茶会が開かれる。 隣の領地のパーシヴァル公爵夫人アニーと未来の公爵夫人である伯爵夫人セーラ。 そしてその令嬢のファリアが招待されていた。 パーティーの場にリチャードもいた。 エリザベスは前の日にリチャードにあるものを渡していた。 「リチャード、これをあなたの好きな子にあげなさい。」 差し出された小さなケースを受け取る。 あけるとそこにはプラチナのペンダント。 トップには小さな4つ葉のクローバーが揺れていた。 「おばあさま、これは?」 「私が14歳くらいの頃、あなたのお爺様…ハロルドにもらったペンダントよ。」 「じゃあ、おばあさまにとっては宝物なんじゃ…」 「確かにそうよ。 でも私が天国に召されたら…持つ人がいなくなるわ。 …大切にしたいから、あなたの大切な 大好きなあの子にあげて欲しいの。」 「え… ファリアに?」 「そうよ。あなたはあの子が大好きなのでしょ?」 照れながらリチャードは答える。 「……はい。」 「あの子にあげてね。 未来のあなたの花嫁さんに。」 「…おばあさま…」 自分の頭をなでる祖母に抱きつく少年。 暖かな祖母の想いが彼を抱きしめていた。 *************** ティーパーティの最中にリチャードは彼女を庭園に誘った。 「どうしたの?リチャード。」 「…実はさ、渡したいものがあるんだ。」 「なぁに?」 「これ…」 彼が差し出した長細いケース。 そっ開ける少女。 あっと小さな叫び声がした。 「リチャード…これって四つ葉のクローバーのペンダント?」 「そうだよ。」 「こんなに素敵なもの…誕生日でもないのに受け取れないわ。」 「…この間の僕の言った言葉、憶えてる?」 「え?」 「僕の花嫁は君だって…」 「う…うん。」 「これはそのことのしるし。 父上に聞いたんだ。僕たちのこの地方じゃ、大好きな人に四葉のクローバーを贈るんだって。」 「あ、私もお母様から聞いたことがあるわ。」 「だから…これは未来への約束。」 「リチャード…」 少女の瞳には涙が浮かんでいた。 「泣かないでよ、ファリア。」 「だって…だって、嬉しいんだもの… ありがとうリチャード。 約束よ。」 「ああ、約束するよ。まだ僕は10歳だし…まだまだ子供だけど…大人になったら結婚してくれるね?」 「…はい。」 幼い二人の約束が小さな胸に刻み込まれた。 それから彼女にとっての宝物は四つ葉のクローバーのペンダントになったのは言うまでもあるまい… ____________________________________________________________ あとがき(2004/10/31) 一気に書いてます私。 今回のは時期的には「大人になる前に」の前段階といったところです。 まだ二人だけの約束… 幼い二人の恋は祝福されているのですが… これから過酷な未来が待っています。 ちなみにリチャードの祖父母は普段はロンドンの屋敷に住んでいます。 このパーティ前後2ヶ月くらい、城に滞在していたとのこと〜 Bismark Novel |