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pretty holiday






―2071年9月1日



その日はパーシヴァル公爵家令嬢ファリアの5歳の誕生日。


この春、心惹かれた少年リチャードは両親と共にパーティに来てくれた。

嬉しくてずっと少年のそばにいた幼い少女。




少年の方も相変わらず可愛らしい少女の笑顔を見て、嬉しそうにしている。



ふたりの親達は小さな可愛いカップルを微笑みながら見ていた。


はしゃぎ疲れたふたりは大居間のソファの上で寄り添いながら寝入ってしまう。



少年の父・ランスロット子爵(まだ公爵位を継いでなかった)は
眠る息子を抱きあげて帰っていった。


ふたりの両親はひょっとしたら将来、この子たちが結婚するかもと
淡い期待を抱き始める―






   ***



少女が5歳になって約一ヶ月経った10月上旬。

ロンドンの邸の廊下でひじを突き、窓の外を見上げる少女。

「いいお天気… お城だったらお散歩に行くのにな…」

溜息をつく少女に気づいたのは通りかかった父。


「ファリア。 …何処かに行くか?」

「え?」


振り返ると笑顔の父。

「あれ…お父様。お仕事じゃ…?」

「もう片付けたよ。」

「ふ~ん…」

「何処か行きたいところあるか?」

「…動物園。」

最近、絵本やTVでいろんな動物を見て興味を持っていたこともあって
素直に父に告げる。

「そうか… 」

「ダメ?」

「…母様が、アレだしな… 父様と母様の3人じゃ無理だな…」

「そう…ね…」

少女の母・セーラは今現在妊娠六ヶ月を過ぎた頃。
軽度の妊娠中毒症気味ということで大事を取っていた。

落ち込む娘を見て、父はピン!ときた言葉を口にする。

「じゃ…隣のランスロット家のリチャード君でも誘ってみるか?」

「えっ!?」

「向こうも多分、メアリ様がダメだろうが… 父様達と4人で…どうだ??」

「行きたい!!」

「そうか。じゃ、、電話して聞いてみる。
待ってなさい。」

「はい!!」

少女はキラキラとした瞳で書斎に向かう父を見送る。



10分ほどして戻ってきた。

「ファリア!! 行ける事になったぞ!!
この天気だし、あっちも何処かに行きたいと思っていたらしい。」

「ホントに?」

「12時前に迎えに来てくれるそうだ。」

「お父様!! ありがとう!!」

「はは…」


愛娘に抱きつかれ、頬にキスされた父は満面の笑み。


「じゃ、出かける用意をしような。」

「はい!!」

少女は自分の部屋に向かって駆けていく。
途中、使用人の青年にぶつかりそうになっていた。




12時少し前には出掛ける用意をして少女と父は車を待っていた。



車寄せに入って来て、玄関前で停車する。

すぐに父娘が降りていくとドアが開けられランスロット子爵が顔を出す。

「や。エドワード。
突然誘ったのに、ありがとう。」

「いや。こっちも助かったよ。
ほら…リチャード。 ファリアちゃんだぞ。」

「あ。うん…こんにちは。ファリア。」

「うん。こんにちは、リチャード。おじ様。お久しぶりね。」


少女の笑顔にどきりとした幼い少年。



「それでは、行こうか?」
「はい。」

パーシヴァル父娘がリムジンの後部座席に乗り込む。
その前にランスロット子爵父子が座る。


走り出してしばらく、子供ふたりはお互い久しぶりではにかんで話せずにいた。


「あぁ。リチャード君。私と席を替わろうか?
君の父上とも話があるし。」

「あ、はい。」

席を変わる途中、
少年はつんのめってしまい少女のひざに当たりそうになるが少女の父が抱きとめる。
少女は心配そうな顔で覗き込む。

「大丈夫?リチャード?」

「うん。
…ありがとうございます。おじ様。」

「いいよ。ほら。」

少年は照れた様子で少女の隣に腰を下ろす。

「リチャードって意外とドジ?」
「ドジはないだろう?」

少女の笑顔に怒る気にもなれなかった少年。
ふたりして笑い合う。



「ね、ファリアは動物園は行ったことある?」

「3歳の時に一度だけ。」

「僕も3歳…だよね?父上?」

「あぁ。お前が…3歳の5月だったな。」

「ファリアは…3歳の秋に連れて行ったな。」

「うん。」



少年は少女に近づき、問いかける。

「ねね、ファリアは何が好き?」

「ん、と…白鳥でしょ、ペンギンでしょ…それから虎とジャガーかな?」

「やっぱり女の子だねって思ったら、虎とジャガーもなんだ…
僕も好きだよ。」

「リチャードはそれ以外何が好き?」

「ライオンとキリン…かな?」

「そうなんだ…」



車が停車すると父達は声を掛ける。

「ホラ、ついたぞ、ロンドン動物園。」

「「わーい♪」」




父親達が入園料を払って、子供の手を引く。

いい天気なので結構な人出。


「ファリア、リチャード君、はぐれるんじゃないぞ。」

「「はい。」」



人気のライオンや虎などの檻は5歳のふたりじゃ見れないほどの人だかり。


「ほら、ファリア…」
「あ…」

父に肩の高さに抱き上げられ、やっと見える。

「わ。こっち見てる。」

「ほら、リチャードも。」

「う、うん。」

少年もまた父に抱き上げられ、やっと見れた。

雄雄しいたてがみの雄ライオンがじっとこっちを見つめている。

「ほんとだ、こっち見てるね。」

「うん。」

「さ、次に行こうな。」



少女は父親の肩車に乗せられたまま移動する。
黒髪が揺れる様を見ていた少年。

 (なんか… やっぱり可愛い。ファリアって…)


他にも同世代の女の子が廻りにいるが少年の目は少女しか見ていなかった。




園内を半分見たくらいで、レストランでランチをとる。


ふたりともお行儀良く食べていた。


「おや…ファリア。もういっぱいか?」

「うん。もう食べれない。」

少女の皿の上には1/3くらい残っていた。

「じゃ、父様が貰って良いか?」

「うん。」

少年は同じメニューを完食していた。

「はは…やっぱり女の子だ。
リチャードに比べて少食だね。」

「いや…ウチの娘、どうも他の子に比べて胃が小さいらしくてな。
元々、普通の子より若干、小さいらしいと医者が言ってた。」

「先天性というやつか?」

「どうもそうらしい。だから子供の割りに少食なんだ。」


少女の父の言葉を聞いて、心配そうな顔をする少年。

「ファリア…大丈夫なの?」

「うん、全然平気よ。」

「まぁ、それ以外はいたって普通なんだよ。」

「そうか。」


父親達は自分の料理を口に運んでいた。





デザートまでしっかり食べた4人は再び園内を廻る。


両生類・爬虫類・夜行性獣ばかりいる別館に入る。


ニシキヘビがガラスの向こうにいた。

「わ!!大きいニシキヘビ!!」

少年は好奇心に満ちた目。
しかし少女はガラスの前に行くのさえためらう。

「怖いか?ファリア?」

「う…ん。」

父の問いに少し怯えた目を見せる少女の手を引く少年。

「大丈夫だよ。ほら…」
「あ…」

それでも少年の陰に隠れる。

「そんなに怖い?」
「怖いし、キモチ悪い…」
「大丈夫、僕が守ってあげるから…」
「…う、ん。」

次のところには大きなボア。
少年の影から一応見る少女を見て父達は微笑んで見ていた。



「な、アーサー。」
「ん。 何だ?」

「リチャードのヤツ、無理してるんだぞ。」
「え?」

親友のにっと笑った笑顔。

「あいつ、少し苦手なんだよ。爬虫類とトカゲ。」

「全然、平気そうだが?」

「あの娘の手前、男らしくしていたいんだろうな。」
「ほお…そうか。」

最初は無理していたが次第に慣れて大丈夫になっていく少年。
少女の手を引いて、次々と見て廻る。


薄暗い夜行性動物の展示へと移って行く。

こうもりやリス、ハリネズミなどがいる。

「わぁ~」
「この子、可愛い♪えっと…"ピグミースローロリス"
こんなのいるんだ…。」
「へえ。確かに可愛いね。目が大きくてさ。」
「うん。」

さっきと打って変わって少女はガラスにへばりつく。
目の前にぴょこんと飛んでくるピグミースローロリス。

「わ♪」

でも一瞬で行ってしまう。



別館を出ると、パンダやシマウマ、ぞう、キリンとメジャーな動物のオンパレード。





帰りがけ、園内のショップでペンギンのぬいぐるみを買ってもらう少女。

「ありがとう♪お父様。」

「あぁ。」

少年は少女を見つめていた。

「お前も欲しいか?」

「いいです。僕は。」

「無理してないか?」

「してないよ。」


ぬいぐるみを抱きしめた笑顔の少女。
じっと見ていた少年は…
ぬいぐるみが欲しくて見ていたのではなく、小さなジェラシー。

それが解らないほどにまだまだ幼い。




陽もだいぶ翳り始め、閉園時間が近づく。

「そろそろ帰るか…」
「あぁ。」



ランスロット子爵が電話で家の車を呼ぶとすぐに迎えに来てくれる。


車は20分もかからずにパーシヴァル邸へ到着する。
その間、少年は少女の横で黙ったまま。



車がパーシヴァル邸の玄関に着くと4人とも下車する。


「それじゃ、また。」
「あぁ。エドワード。今日はありがとう。」

「いや、こちらこそ。楽しかったさ。な、リチャード?」
「はい。ありがとうございました。」


少女はぬいぐるみを父に渡すとエドワードに声を掛ける。

「おじ様、少しかがんでもらえますか?」
「ん? なんだね?」

「今日はありがとうございました。」

ちゅっと頬にキスする少女。

「はは…これはこれは… また、行くかな?」

思いがけない小さなレディのキスに喜ぶ。
横で少々驚いた顔の少年にも声をかける。

「今日は…色々と説明してくれたり、守ってくれたりしてくれて、
ありがとう。 リチャード。」

ちゅっと少年の頬にもキスする。

「あ…うん。」

「また一緒に行ってくれる?」

少女が髪を揺らし問いかけると、嬉しそうに返事する。

「うん。また、行こうね。」

キスされた頬に手を当てる少年の笑顔は少々照れ臭そう。


「じゃ、帰るか。メアリも待っているだろう。」

「はい。父上。ファリア…またね。」

「うん。それじゃ。」



車に乗り込み、帰っていく父子を見送る父と娘。


「じゃ、また来年の春位に行くか…?」

「春?」

「そうだ。きっといろんな動物の赤ちゃんがいるだろうしな。」

「うん。お父様!」







隣の邸―ランスロット邸に帰ると父は息子に問いかける。

「リチャード…ファリアの事、好きか?」

ダイレクトに聞かれ、少し照れる。

「う…ん。 ファリアって可愛いよね?」

「はは…そうだな。」

さっきの可愛いお礼のキスを思い出す。

「ちっちゃいし、守ってあげなきゃって思うんだ、僕…」

「そうか。それじゃ、しっかり守れるように立派な騎士にならないとな。」

「はい。」


本人達はまだ気づいていない…
幼い恋心に父親達は優しい目をしていた。






   ***


―あれから14年

リチャード、ファリア共に19歳の10月。


彼がビスマルクチームの一員として活躍した結果、
木星の衛星・ガニメデ星やアステロイドゾーンに侵略を進めていた
異星人・デスキュラを撤退させ、
ヤツラの本拠地・ヘルペリデスを破壊することが出来た。

地球連邦政府が戦争終結宣言を出す。


無事にリチャードが英国に戻ってきた。


「ただいま…ファリア。」
「お帰りなさい。リチャード。」

空港まで出迎えに来た乙女。
ふたりはしっかり抱擁する。

やっと帰ってきたという実感を抱く青年。


今ではすっかり恋人同士で、正式に婚約までしていた。


「な、ファリア。久しぶりにふたりで何処かに行かないか?
何処行きたい?」

迎えのランスロット家の車の中で恋人を抱きしめて問いかける。

「…そうね。近場でなら… ロンドン動物園かしら?」

「え?動物園?」

「えぇ。」

「何でまた?」

「あら、憶えてない?
私達初めてのデートはロンドン動物園だったじゃない。
父達も一緒だったけど。」

「あ、そうだね。」

「だから。
ねぇ、行きましょ。お弁当持って♪」

「解ったよ。 明日、天気が良ければ…行こうか?」

「えぇ。楽しみにしてるわ♪」





   ***



ふたりはロンドンの晴天の下、久々に動物園へ―

5歳の頃と変わらない反応を見せる乙女に
青年になった少年はやさしい目で見つめていた…



あの日、抱いていた感情を思い出した彼は思わす苦笑する。

「どうしたの…リチャード?」

「いや…ものすごく、あの頃は子供だったなぁと思い出してさ。」

「5歳の秋?」

「そう。
僕が君の抱いてたぬいぐるみを見てたの、憶えてる?」

「え? えぇ、帰りがけに私が買って貰ったペンギンのことでしょ?
あなたのお父様が"欲しいのか?"って聞いてらしたわね。」

「あぁ…アレさ、欲しかったんじゃなくて…
今だから解るし、言えるんだけど。」

「何?」

「ぬいぐるみに嫉妬してたんだよ。僕。」

「え?嫉妬?」

少々驚きの目を見せる乙女。

「そう。君に抱きしめられてるペンギンにさ。
ホント、今思うと子供だよな。」


苦笑する青年の顔を見つめる。

「あの、ペンギン…確か、何処かに置いてるはずよ。
あの日の思い出にって。」

「そうなんだ。」

「ね、今も私がぬいぐるみを抱いてたら…嫉妬する?」

「少し。
でも… ぬいぐるみは抱き返すことしないだろ。だからもう…」

「ふふ、そうなのね…」

ぎゅっと乙女を抱きしめる青年。


園内でHugするふたりを見て、幼い子供達が冷やかして通り過ぎる。

「わ~、こんなとこでラブシーンしてる~!!」
「うわあ~♪」
「きゃぁ~☆}


子供達の声に思わず照れてしまうふたりがいた。



「…行こうか。」
「えぇ。」


少々照れ臭さを感じながらもふたりは手をつないで歩き出す。
それはまるでオシドリのように…











Fin
________________________________________
(2005/10/23)

*あとがき*

自分が動物園に行った時に、浮かんだネタ。
「動物園デート」
ううう~バカップル♪

ロンドン動物園…現実の園内は知らないので(笑)
京都●動物園がモデル…(苦笑)

でもロンドンの地図で見たら、ふたりのロンドンの邸から
めっちゃ近いのですよ~。
どうりで車で15分なワケだ☆


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