貴方に愛されて…

 とにかく逃げたかった。死にたかった。
 ラーナ星の美しい湖であるベルナー湖で身を投げたかった。
 あの時の少年との思い出、ファーストキスの思い出を抱きながら。
 でも再会してしまった。あの時の少年が、素敵な青年になって私の前に現れたことを。

 私の名はステファニア・バルドンヌ。世間では一番稼いでいるトップモデルといわれているが、実際は過酷なものだった。
 貧しい生活の中で亡くなったお父様の残した借金を返済するために、17歳の時にモデルの仕事をはじめたが、いくら稼いでも、ほとんどの収入はシンジケートに吸い上げられる。
 モデルの出はじめの頃は、太陽系の大物を相手に売春をやらされたことがあった。体を弄んでは、多額のお金をもらった。当然のことながらシンジケートに吸い上げられていく。
 仲間のモデルも同じことを強要された。拒否すれば仕返しに何をされるか。
 外宇宙の辺境惑星に売り飛ばされるか、見せしめに殺されるか。いずれにしても私に逃げ場はなかった。
 惨めとしか言いようがなかった。いくら華やかな衣装を身につけてスポットライトを浴びようが、カメラの前に晒されようが、私はただ動く人形として暮らさなければならない。私が生きている限り。
 私があの人と再会したのは、ラーナ星のファッションショーから抜け出した時だった。
 前日にラーナ星に着いた時、私は涙を流した。ラーナ星には、あの時の少年との思い出が詰まっていた。
 その夜、マネージャーでヒモでもあるジーゴにしつこくつきまとわれた。
 ジーゴは17歳の時に、処女を散らした男である。シンジケートの下部組織の幹部の1人に過ぎず、お父様が病気になった時にジーゴから多額の借金を申し込んだ。その見返りが私の体だった。
 ジーゴはいいように私の体を弄び、売春を強要した。様々な男相手に体を売ることしか、その時の私にはなかった。
 モデルの仕事を紹介したのもジーゴだった。モデルと聞こえがいいが、実際は太陽系の大物相手の売春婦。
 その日もジーゴはラーナ星の大物を相手に体を売るように強制した。
 限界だった。もうあの男の顔なんて見たくなかった。
 私は朝早く車に乗って、ベルナー湖の湖畔で運悪く見つかってしまった。男たちが私にもどるように説得する。私はジーゴの顔なんか見たくないと拒否した。ジーゴがやってきて、いきなり頬に平手打ちをする。
 モデルの顔に傷をつくなんて、最低よ。私はあくまでも神でもこの場所を動かなかった。ジーゴが私を連れもどそうとしたその時、あの人がジーゴを殴りつけた。
「ブルース!」
 私はあの人の名前を口にした。
「ステファニア…」
 あの人が私の名前を口にした。
「クソ…」
 ジーゴがナイフを手にして、あの人に立ち向かう。
「貴様か?!ステファニアをたぶらかしたのは?!」
「やめて、ジーゴ。そんなんじゃないわ」
 私がジーゴを止めようとする。しかし、ジーゴが突き飛ばすと、私が体のバランスを崩し、ガードレールを越えて、ベルナー湖へと転落した。
 気がつけば、私は暖炉のある屋敷にいた。白いシャツを着せられ、暖炉の前にはあの人のブラウンの上着と私のドレスがかけられていた。
 立ち上がって、雨戸から外を見た。外は雨。あの人が雨宿りをしにこの屋敷へ移動してくれたらしい。
 ドアにノックする音がする。
「どうぞ」
 あの人が薪を持ってやってきた。
「この別荘、売りに出されて間もないようだ。使える燃料がまだ残っている。君とはこんなところで会えるとはね…」
 あの人が暖炉に薪を入れながら言うと、
「変わったでしょう、私?」
「ああ、綺麗になった…」
「やめてちょうだい!」
 私はあの人が知っている私じゃない。あの時から、故郷を離れたあの時から、私の人生はまさに地獄そのものだったのよ。
 そう、私がまだ12歳だった時、お父様が事業に失敗して、夜逃げ当然で故郷を出て行った。列車に乗せられて、窓の風景を見ていた時に、あの人が馬に乗って私の名前を叫んでいるように見えた。私もあの人の名前を叫んだ。届くことがないのをわかっていながら、あの人の姿が遠くなっていくのを、私は涙を流すしかなかった。
 それから何度もあの人に手紙を書こうと思ったけど、新しい生活はそんなゆとりすら与えてくれなかった。借金を返すために自分も働いたけど、10歳でそこらの収入はたかが知れている。行き着くところはいつも決まっている。シンジケートの下部組織から金を借りるしかなかった。
 私がこれまでの経緯をあの人に打ち明けた後、
「ご両親は?」
「死んだわ。最後まで貧しい生活の中で。ねぇ、ブルース。煙草ちょうだい…」
 あの人から煙草をもらい、ライターで火をつけると、私は深く吸っては吐いた。
「モデルをやめたらどうだ?」
 あの人が言った。
「やめる?お父様が病気になった時、シンジケートから多額のお金を借りたの。利息分を入れて、ほとんどの収入がシンジケートに吸い上げられているの。私が生きている限り。知ってる?ブラディ・シンジケートを…」
「ブラディ・シンジケート?君が言っていたシンジケートと言うのは、ブラディ・ゴッドのシンジケートと言うのか?!」
 太陽系でブラディ・シンジケートの名前を知らない者がいないほど、暗黒街を牛耳っている。
 自分がモデルをやめれば、どんな制裁が待ち構えているのかをあの人に知らせた。
 もう私に出口はない―。
 震えながら煙草を落として、
「いっそのことなら、あの時ベルナー湖で死んでしまえばよかった…」
 私は泣き伏せた。
「何を言っているんだ?!」
「もう貴方の知っているあの頃にはもどれない。汚れた女なのよ…!」
 それでもあの人は私にやさしく触れた。貴方って、今でもやさしいのね。
「ブルース!」
 私はあの人の胸に飛び込んだ。あの人は私を抱きとめた。
「抱いて、もっと強く。何もかも忘れたいの…」
 あの人は私の唇に塞ぐようにやさしく口づけた。私は彼の愛撫に身を任せて、官能の世界へと旅立った。
 あの人の唇、あの人の舌、あの人の指先が、私を頂点へと誘ってくれる。そう思うと、私は甘い声を出す。
「あ…」
「綺麗だよ、ステファニア…」
 あの人の甘い囁きが私の聴覚をくすぐる。私の唇、私の耳元、私の細い首筋、私の乳房があの人の愛撫に反応する。
 なんて気持ちいいんでしょう。これまで男たちを相手に体を差し出したが、あの人ほどやさしい人はいない。
 ほとんどの男たちは私を一方的に弄んでは、冷たくあしらうが、あの人は違った。あの人は昔から変わらないやさしさで私を抱いている。
 私は初めて女に生まれてよかったと感じた。あの人の愛撫はやさしく、なおかつ激しかった。
 あの人の指先が私の花弁の上にある小さなものを触れると、私は小さく悲鳴を上げる。
「あぁ…、ブルース」
「そこが気持ちいいのか?」
「気持ちいいわ。もっと…もっと私を愛して…!」
 私の頭から理性が吹き飛ばされ、愛しい男の愛撫に震えている。
 あの人の唇と舌で私の花弁を愛撫する。私は自分が感じるところを教えながら、受け入れている。
 しばらくして、あの人が上体を起こして、ジッパーを下げる。固くて逞しいものが私の目の前で立っている。
 私はそれを口を含む。
「うっ…」
 あの人が低く呻いた。あの人のものが愛しく感じた。私は舌と唇と手であの人のものを愛撫する。
 早くあの人のもので私のなかを貫かれたい。早くあの人とひとつになりたい。私はあの人にせがんだ。
 あの人が私を下に寝かせてから、その逞しいもので私のなかに入れる。
「うっ…」
 私のなかがあの人のものを拒む。
「きついよ…」
「ごめんなさい…」
 私は息を吐いてから、体の力を抜く。やっとあの人のものが私のなかへ入ってきた。
 あの人がゆっくりと腰を動かす。私はあの人の首に両手を回して、うっとりと仰け反る。
「あぁ…嬉しいわ…」
「私もだ…」
 それから私はあの人と体を繋ぎながら愛しあい、私のなかであの人の熱いものを受け入れた。
 どれほど眠っていたのかはわからないが、あの人を呼び出す電子音で目が覚めた。
「…わかった」
『急いでよ、オーナー!』
「わかった」
 私は起き上がって、何処行くのと訊いた。
「ここから動くな。明かりを消しておけば、まず心配はない」
「もう何処にも行かないわ。私、今幸せなの。貴方に会えて…」
「じゃ、待っていてくれ…」
 あの人が私の額に口づけた。
 そういえばファーストキスの時に、あの人は私の額に口づけをしようとしたわね。あの時、貴方の恥ずかしそうな顔を、私は今でも忘れていないわ。
「ブルースったら…」
 私はすっかり乾いたドレスを着て、暖炉の火を消してから外を出た。
 その時、ベルナー湖の向こうにあるヴィクトール湖付近で、戦火が広がっている。
 貴方なのね、戦っているのは。
 I・C・ブルース―ブラディ・シンジケートを相手に太陽系を回っているのを。
 でも私がいれば、貴方の重荷になるわ―。
 今のあの人は、私が知っているあの人じゃない。私もあの人が知っている私じゃないように。
 私はあの人から本当に姿を消そうとしたその時、ロケット弾が背後の別荘に当たり、私の体がその爆風で飛ばされていく。
 さようなら、愛している―。
 もうこれでいいの―。
 これで私は自由―。

 その事実を知らないブルースは、ステファニアを殺してしまった罪悪感を抱いてしまったまま、太陽系一周に賭けたのであった。

FIN

《あとがき》
サスライガー第14話の『哀愁のベルナー湖』をステファニアの視点で書きました。普段は男性向きも書けますが、女性でも読めるように、性描写を直接的に書かないように心がけました。
ステファニアといえば、島本さんがあてましたね。当時お姫様のイメージが強くて、汚れ役を演じるのが新鮮でかつ衝撃でした。
私は中高生の時に、曽我部さんに会いたいがために声優を目指していましたが、両親の反対と喉が弱い理由で断念しました。今でも小説を書く時に、モニター前で一人芝居をしながら書いています。この小説を書く時でも、ステファニアになりきり、なおかつ彼女の気持ちと同調しながら書きました。




*****By 松山 瑞樹
平安朝美人様からまた頂きました☆
ありがとうございます!!
サイトカラーに合わせての執筆、ありがとうございます!! 
(私の場合、直接的な表現がまだ恥ずかしくて… )



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