Precious -6-
リチャードの照れ臭そうな表情を見て、みな笑顔を浮かべていた。
今までほとんど見せなかった笑顔…
驚き半分、安心半分といった思いのメンバー達だった。
「ところでリチャード。
私達に紹介するためだけに彼女を連れてきたのか?」
ルヴェールは少々、鋭い目つきで彼に問う。
「…いいえ。
実は彼女もチームの一員にと思いまして。」
「ほう?」
「今回の資料で僕は少し行き詰ってしまって…
都の図書館へ行かなければならないかと思っていたのですが
彼女が解読してくれました。
それにゴダ神殿のことも知っていましたし。」
「何?!」
驚くルヴェールにまだ彼は言葉を続ける。
「ファリアには月神殿の巫女としての知識がある。
それを生かして 僕のアシスタントという形で。」
「ふむ…
そうか。
ファリアさんはそれでいいかね?」
ルヴェールは彼の横にいる乙女に問いかける。
表情は真摯になっていた。
「はい。 私が修行の上で得た知識をお役に立てる事が出来るのなら。」
「…そうか、ありがたい。」
リチャードは真面目な顔でルヴェールに告げる。
「…それで今回の資料の結果なのですが、
彼女の意見では神殿に行くのは止めたほうがいいと。」
「…何?? 何故だね?」
ルヴェールは乙女に再び問う。
「ゴダは狡猾な古代の神です。
もう廃れた神殿ですけど、何が待っているか解りません。
少なくとも魔法生物は放ってあるはずですし。」
「「「「「魔法生物!?」」」」」
あまり聞かない言葉にメンバーも驚く。
確かに大昔の大陸には魔道士達が作り出した魔法生物が跋扈していたと
聞いたことはあったが、今もいるかもしれないと聞いて、びっくりするしかなかった。
「少なくとも…"ゴダムの罠"と言われる眷族がいると考えるべきです
ルヴェール様。
どうしても神像をお求めになるのなら、メンバーには最低限の装備が必要ですわ。」
「装備?」
「えぇ。 銀の刃の刀剣類と太陽神殿の聖水。
それに月神殿の聖水。ってトコロですわね。」
「銀の剣はわかるが 何故、聖水2種??」
「万が一、襲われた時のために必要です。
コトは急を要する状況になる。 だからひとり一瓶ずつ。
小瓶でいいんです。」
彼女の言葉を真剣に受け止めたルヴェールは思案をめぐらせる。
しばしの沈黙の後、口を開く。
「そうか…解った。
それでは出発の予定は明日の朝から午後に変更だ。いいね?」
「「「「「「はい。」」」」」」
「今日はいつもどおり邸に泊まっていってくれ。
勿論、ファリアさんもだ。」
「ありがとうございます。」
「それでは夕食の時まで解散。」
「「「「「「はい。」」」」」」
リチャードと部屋を出て行こうとする乙女を呼び止めるルヴェールがいた。
「あぁ…ファリアさん。
すまないが残ってくれたまえ。」
「はい。」
「領主様。僕は?」
彼女の肩を抱く、リチャードは問う。
「すまんが…ふたりだけで話させてくれ。」
「…解りました。
それじゃあとでな…ファリア。」
「えぇ、リチャード。」
そっと彼女の頬にキスを残して、心配そうな表情の彼は出て行く。
残されたファリアは領主とふたりだけ。
「さて…君があの ジェラルドの娘とはね… 少々驚いたよ。
全然似てないね。」
ルヴェールはそのダークブラウンの瞳を細めて乙女を見つめる。
「私は母はに似ているそうですから。
…4日前に11年ぶりに父に会いましたの。
あの時、父は父親でなくただの男。いえ、オスでしたわ。」
渋そうな顔つきになるルヴェール。
「何かあったのかね?」
「お恥ずかしいことですが…
私を犯そうとして来ました。 若い頃の…出会った頃の母に似てると。」
「!? 相変わらずなのか…むしろ実の娘を襲うとは破廉恥な!!」
「父の腕から邸からなんとか逃げ出しましたけど… 部下に私を追わせて来ました。
このピールが大祭で賑わっていたので人ごみに紛れて…
なんとか逃れることが出来ましたの。
その時にリチャードと出会いました。」
乙女の言葉を聞いて、ルヴェールは微笑を浮かべる。
「そうだったのか…
リチャードのこと、よろしく頼む。」
「え?」
頼むといわれ面食らう乙女がいた。
「私は彼が赤ん坊の頃から知っている。
捨て子だったという負い目をずっと抱いていてね…
幼い頃からいつも冷めた目で周りを見てた。
両親の愛情を知らない不遇な子。
進児とビルは…少なくとも両親の愛情を知っている。
けど…リチャードは… 」
瞳を伏せるルヴェールにファリアも悲しい瞳をしていた。
「そうみたいですね。
あの時、私は彼に助けられたけど…手を繋いだ時に感じました。
彼も心のどこかで悲鳴を上げていると。」
「そうか…。」
「私も幼い頃の両親の愛情を知っています。
あの頃の父は優しかった…
彼はきっといつも幼い頃から人と違うと自分から壁を作っていた。
おそらく信じているはずの領主様、仲間の方々にさえ。
けれど私に出会って彼はきっと…
それは私もですけれど。」
ファリアの瞳は嬉しさと切なさを混ぜたような微妙な色…
「…ファリアさんもリチャードを心底愛してると私には見えるよ。
リチャードもあなたに惚れている。
プロポーズの件は…少々早いが、あってもいいと思うがね。
きっとリチャードはあなたに安らぎと愛情を覚えたのだろう。」
「それは…私もです。」
「ははは…出会うべくして出会ったのだな。
それは運命の恋とでも言うことだね。」
「運命の恋…」
ルヴェールのいった言葉に乙女は重みを感じた。
「何度も言うようだが、リチャードをよろしく頼む。
あの子があんなに優しい目をしているのを初めて見たよ。」
「はい…ルヴェール様。」
ふたりは微笑を浮かべていた。
「…食事の後、ふたりでここに来てくれないか?」
「え? は、はい…」
「美しき巫女の乙女ファリアよ…
これからもよろしく。」
「こちらこそ…」
乙女が部屋を出て行くのを穏やかな瞳で見つめるルヴェールがいた。
こんな日が来るとは思いもしなった。
リチャードが伴侶とする女性を連れてくることを…
***
ファリアがリチャードのいる部屋に入ると心配の色を浮かべた彼が出迎える。
「ファリア!! お帰り…
領主さまと何の話を?」
「私のことと…あなたのことを。」
「は?」
「あなたのこと…よろしく頼むって何度もおっしゃってたわ。
とても心配なさっていたのね…」
「そうか…」
彼は少し切ない笑顔。
そんなに自分を拾って育ててくれていたルヴェールが心配してくれていたのだと
改めて感じた。
そんな彼を見て、ファリアが抱きつくとそっと腕をまわす彼の腕…
7人での夕食を終えるとふたりは先ほど言われたとおりにルヴェールのいる部屋に。
「あぁ…来たか。」
「「はい。」」
ふたりが椅子につき あごの下で手を組んでいたルヴェールに近づく。
その手を外し、領主は木箱を差し出す。
「リチャード。これを君に返そう。」
「!? こ、これは…」
驚くのも無理はない。
10年程前にルヴェールに預けていたもの…
「昔、君が幼いころにチェス大会で優勝した時の副賞だ。」
「まだお持ちだったのですか? てっきりすでに売り払ったと…」
「いや。 いつか…君の役に立つだろうと思って 残しておいた。」
リチャードは10数年ぶりに自分が得たものを受け取る。
それの中身は金貨一袋(5000G)と指輪。
まだ当時9歳だった彼にとっては過ぎたもの。
自分でそう感じて、ルヴェールに預けておいた。
何かの際にはこれを使ってくれと頼んで。
てっきり都の大学の進学費用のために売り払ったと思っていた。
驚く彼にルヴェールは告げる。
「お金は結婚資金に。 指輪もちょうどいいだろう…」
「領主さま、ありがとうございます…」
その心遣いに彼は涙ぐむ。
彼はケースから指輪を取り出す。
「ファリア… これ、結婚の約束に受け取ってほしい。」
「…はい。」
彼女の左手薬指にそっと嵌める。
「あ。これ、ムーンストーンね。」
「そう。当時となんら変わってない。君の指にぴったりだ。」
「えぇ…ありがとう。
リチャード。 それに領主さま。」
幸せな笑顔を浮かべるふたりにルヴェールも微笑んでいた。
「私はふたりの幸せを願っているよ。」
「ありがとうございます…」
自分たちのことを優しい目で見てくれるルヴェールに感謝でいっぱい。。。。。。
***
その夜、ルヴェールの屋敷での一室でふたりは抱き合う。
「あ…リチャード…」
「ファリア… 愛してる…」
甘く切ない吐息と声を重ね、ふたりは絶頂の嵐の中へ―
握り締めた手と手―
彼女の指に嵌められたムーンストーンがほのかに輝いていることにふたりとも気づかない―
to -7-
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(2006/4/5+8)
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