orbital






ここは緑豊かなニューヨーク郊外にある全寮制の女学院。

多くの良家の子女が在籍していた。

その中のひとりである少女の名はバーディ=ショウ。
父親は太陽系ベストセラーノンフィクション作家・ビンセント=ショウ。
母親は一世を風靡した大女優ダイアン=ハーシー。
姉であるシャロンもこの学院に在籍していた。






夏のバケーションで姉妹は父が持つグリーン惑星海にある別荘に来ていた。
姉のシャロンは11歳。妹のバーディは9歳になったばかり。

緑の豊かなこの星で父の別荘は小さな湖のほとりにあった。


二人の娘は宿題もそこそこに遊びまわっていた。


周辺には民家がないのでショウ一家しか滞在していない。

姉妹は年が近い割りに仲が良かった。


二人そろって母の知り合いのフラメンコダンサーに教わっている。



父とのバケーションが始まって2週間が過ぎたころ、TVドラマの撮影が終了した母がやってきた。



「はぁーい! 二人とも元気そうね。」

湖のほとりで遊んでいた愛娘二人に声をかける。

「ママ!」

シャロンもバーディもそろって駆け寄る。

「二人とも仲良くしてる?  宿題はちゃんとしているのかしら?」

二人の娘を抱きしめ、母親らしい言葉を掛ける。

「ちゃんとしているわ、ママ。」とバーディ。

「何とかしているわ。」とシャロン。

「ふふ…」
ダイアンは微笑みながら二人の顔を見つめる。



3人が別荘に向かうとビンセントが笑顔でこっちを見ていた。


「やっと撮影が終わったんだね。」

「えぇ、あなた。」


そのダイアンの瞳に或る決意があるのを夫・ビンセントは感じ取っていた。







夜は父と娘の3人がご馳走を作ってダイアンを喜ばせた。
食事が終わり、娘二人が寝静まったころ、夫婦は静かに向かい合っていた。




「あなた…」

ビンセントは妻が何を言おうとしているのか解りつつも黙っていた。

「あなた、今度こそ別れて下さいますね?」

「………。」

「私はあなたの妻を演ずることは出来ても、妻になることは出来ません。」

その言葉にビンセントは自分たちがもう終わりだと実感した。

「わかった。しかしシャロンとバーディをどうするつもりだ?
お前が母親を放棄するというのなら、私が二人を引き取る!」

「なんですって?!私は二人とも引き取るつもりでしてよ!」

「なんだと?!妻にはなれないと言っておきながら母親はするつもりか?!」

「子供には母親が必要だわ!」

「何という自分勝手な! どうせ学院に預けっぱなしにするつもりだろう。」

「そんなことはないわ!」

「いいや、お前はそういう女だ。
女優の仕事を辞められないお前のことだ。  …娘たちが可哀想だとは思わんのか?」


その言葉に言い返せないダイアン。

黙るダイアンにビンセントは震える拳をどうすることも出来なかった。

その場にバーディが現れた。

「…パパ?ママ?」

すぐさまダイアンが声を掛ける。

「まあまあ、バーディどうしたの?おトイレ?」

「…うん。」

「さ、早く寝なさい。」

やさしくダイアンが2階へつれて行こうとしたとき、バーディが口を開いた。

「ねぇ、パパとママ、離婚しちゃうの?」

バーディの言葉がダイアンにもビンセントにも突き刺さった。

「聞いていたの?」

「うん…」

黙る3人。

「ママ、あたし、パパのトコに残る。」

意外な言葉に夫婦は驚く。

「だっておねえちゃんとあたしがママのところに行っちゃたらパパが寂しいでしょう?」

「…バーディ。」

ダイアンは幼い娘が言った言葉に涙した。

「バーディがそうしたいのならママは構わないわ。
でも忘れないで、あなたが私の娘だってことを。パパの娘だってことを。
シャロンの妹だってことを。」

「うん、解った。」

「さあ、早く寝なさい。」

ビンセントはバーディを抱き上げ2階のベッドに運んだ。



「おやすみなさい、パパ。」

「あぁ、いい夢を。バーディ。」

ビンセントは愛しい娘の頬にキスした。





1階に戻るとダイアンがむせび泣いていた。

「ダイアン…」

「あなた…」


夫婦の絆は切れ掛かっていても、決して嫌いになって別れを決意したわけではない。

ダイアンにとって妻よりも女優という仕事を選んだだけなのだから。










1週間ほどの休暇を終えて次の仕事に向かうダイアンは最後の日に二人の娘に自分の決意を告白した。

シャロンは驚くしかなかった。
この1週間、そんな素振りがなかったから。
バーディはあの晩のことが夢ではないことに気づいた。

そしてビンセントは言う。
「シャロンはママのところに。バーディはパパにところに行くことになるが、
二人が姉妹だという事実を忘れないでくれ。」

「パパ…」

シャロンはビンセントに抱きついた。
そしてバーディもダイアンに抱きつく。


「シャロンにもバーディにも悲しい想いをさせてしまって悪いと思っているわ。
でもママはママの人生を歩きたいの。解って頂戴。」

「ママ…」


バーディもシャロンも永遠の別れではないことを理解した。








それから半月後
ダイアンとビンセントは正式に離婚した。
そのことは久々に太陽系の芸能界ニュースを騒がせた。


ダイアンはハーシーという姓になった。
姉のシャロンは学校も変わった。
周りが騒がしく、さわぐから。

バーディは変わらずに学院に居続けた。
父の名の元、努力家の彼女は飛び級で18歳にてカレッジを卒業した。
その間に父と娘は絆を深めていた。
休みごとにバーディは父の元を訪れていた。
それに姉シャロンとも連絡を取っていた。


ある日、いつもどおりバーディがシャロンの連絡先にコンタクトを取るがまったく繋がらない。
仕方なくバーディは母の家に行っているのかと思いそちらにも連絡しても見つからない。
おかしいと感じ、思い当たるところに当たってみるが見つからない。
恋人のカルロも見つからない。

そのことに気づいたバーディは両親にこのことを話した。



それから解ったのだがシャロンは地球から出て行っていた。

ブルー惑星海にも居ないことがわかった。

「家出」ということに両親と妹が気づいたときは遅かった。


姉・シャロンは行方不明とされた。





数年後、姉と妹は再会するがそれはまた別のお話…








_______________________________________________________________________
あとがき(2004/9/9)
バーディの過去話第1弾です。
背景がはっきりしない昔のアニメって楽しいですv
人物がしっかり作られている最近と比べて創造の余地がある昔の作品って…

ロックもブルースもビートも皆、家族構成はわかっている(ブルースは兄貴だけ?)






Sasuraiger Novel Top