-10- 「loneliness」
―夜中 …ランスロット城
リチャードは一人、自室のバスルームにいた。
大きな甘い溜息ともいえぬ呻き。
「はぁ… ファリ…ァ…」
昼間あれだけ彼女を求め、愛し合ったと言うのに寝入る直前に彼女の吐息と声と肌を思い出し
ひとり悶々としていた。
何度爆ぜても萎える事を知らない、自分自身が止められない。
「あぁ…」
シャワーの湯で流れていく白い塊―
「ダメだ…」
バスルームの壁を叩く。以前とは違う明確な渇望―
バスルームから出ると服を着て、今度はドナテルロで出て行く。
向かった先は…ローレン城。
内部の構造もセキュリティも何もかも知っている
彼は誰にも気づかれずに彼女の部屋の前へと辿り着く。
―深夜1時
もう眠っているだろうと思いつつノックする。
やはり反応はない。
すまないと思いつつドアを開け、リビングを通り抜けベッドルームへ。
彼がドアを開けると…リィを抱いたまま眠る彼女の姿。
「!!」
途端に自身の熱が下がるのが解った。
キャミソールとフレアパンティだけの彼女と自分と同じ金の髪の幼子。
「はは…こりゃ、参ったな…」
夜這いをしてしまった自分に気づき、情けなくなる。
「…愛してるよ。」
そっと彼女と息子にキスして部屋を後にしようとする。
リィがふにゃふにゃという声を上げてしまう。
慌てて駆け寄り、しーと静かにさせようとしたが逆効果。
突然の出来事に泣き出してしまう。
「ふぇ…ふぁあぁああん!」
「ん…? リィ…」
我が子の泣き声に起こされたファリアは人の気配を感じて飛び起きる。
その目に映ったのはここにいるはずのない恋人リチャード。
困惑するのは当然。
「え…? どうして? え…??」
ばつが悪そうな顔を向ける彼。
「すまない。どうしても…君に逢いたくて…来てしまった。
気持ちよさそうに二人が寝てたから帰ろうとしたんだけど…」
「リィが起きちゃったのね?」
「あぁ。ごめん。驚かせてしまったようだ。」
リィを抱き上げ、背を撫でる彼女。
「もう…仕方ないパパねぇ…」
くすくすと笑いながら子守唄を歌い出す。
すぐに泣き止んだリィを部屋の傍らに置かれているベビーベッドへと運ぶ。
しばらくすると寝入ってしまう。
彼を振り返る。
「それで…私たちに会いに来てくれたの。こんな時間に?」
二人が時計を見ると深夜1:20。
「すまない。帰るよ。…悪かった。」
踵を返してベッドルームを出ようとする彼の背に抱きつく。
「もうちょっといて。お願い。
折角、私たちに…ううん、私に逢いに来てくれたんでしょ?」
図星を突かれ息が詰まる。
「…あぁ。」
「式は先だけど…私たち恋人同士でしょ?いいじゃない。
遠慮しないで…」
彼女の回してきた手に手を重ねる。
「…ファリア…」
「あなたが私の体面を考えてくれているのは嬉しいし よく解る。
でも今更…リィもいるのに。」
「…はは、そうだな。」
苦笑いする彼はその腕を緩め、振り返り抱きしめる。
「…ひょっとして…淋しかった?
だからこんな時間に逢いに来てくれたんでしょ?」
「…正直に白状するよ。
…淋しかった。
君のぬくもりと声が欲しくて来た。」
率直に言われて嬉しさを感じる彼女。
「…私も少し…淋しかったわ。」
「君にはリィがいるからなぁ…」
「それもあるかも…」
深夜だと言うのに声を出して笑い会う二人。
彼の腕から離れ水屋へと向かう。
「ねぇ、何か飲む?」
「ん?あぁ。」
冷蔵庫からぺリエを出しグラスに注ぐ。
「はい。」
グラスを受け取り一気に飲む。
彼女も同じように飲んでいた。
「…ファリア。」
「なぁに?」
「少し…君の淋しさが解った気がする。」
「…え?」
意外な彼の言葉に驚く。
「あのフルシーミ星でひとりで…この子と共に生きようとした。
僕も…きっとたった一人なら…生きていけない。だから君を探した。」
グラスを握り締めそう告げる彼を見つめる。
「…リチャード。」
「僕は…周りが思っているより弱い人間だ。
君を失ったと思った直後、…3ヶ月間引きこもったよ。
そんな僕を救ってくれたのは君の父上・パーシヴァル公爵だ。」
「…え?! お父様が?」
「あぁ。君の父上も”娘は生きている。死んでない。”と信じておられた。僕もだ。
君の父上に言われて気づいた。
君を見失って嘆いているより、探し出す為に今を生きようって…」
真摯な瞳で見つめられる彼女は胸が熱くなる気がした。
「そうだった…の…知らなかったわ…」
彼はポケットから赤い手帳を出してきた。
「そうだ…これを君に。」
「なぁに?」
「半分は日記。後の半分は…その時、自分が感じたことを綴っている。
ビスマルクチームのビルに言わせると女々しいだって…」
「そんなことないわ…ねぇ、見ていいの?」
「あぁ。」
赤い手帳の日記はあの日からちょうど3ヵ月後の10月から始まっていた―
ファリアは目で文章を追う。
しばらく彼は見守っていた。
目の前でぽたぽたと涙を流す―
「…リチャード…」
読み終えた彼女は手帳を胸に抱く。
「ありがとう…こんなに… 私を愛してくれて…求めてくれて…」
零れ落ちる涙がキャミソールの胸元を濡らす。
「リチャード…返すわ。」
差し出される赤い手帳。
「いや、君が持っていてくれ。」
「え?」
「新しいのに変えるから…」
「新しいの?」
「そう。これからは3人分、書かなきゃならないからな。」
その言葉で笑顔が溢れる。
「じゃあ、私が持っているわね。」
「あぁ。」
ファリアはじっと手帳を見つめる。
「ねぇ、リチャード。遠い将来…もし私が死んだら…お墓に入れて。お願い。」
彼女の言葉が胸に重く響く。
「ファリア…。僕を置いて先に逝くのか?」
「…え?」
思いがけない反応に彼女も驚く。
「もう、君と離れるのはコリゴリだ。そんな日を迎えたくない。」
「あ…、じゃ、リィに頼むわ。」
「…そうしてくれ。」
リチャードは彼女を抱きしめる。
その手も声も震えていた。
「もう…君を失いたくない…」
「あ… ごめ、ごめんなさい…リチャード…」
不意に口にした言葉で彼を泣かせてしまったことに戸惑いながらも謝る。
「私…私… ごめんなさい… ごめんなさい…」
彼は何も言わずくちづける。
お互いを求めるように貪りあう。
「んッ…ん…」
彼の手がキャミソールの上からふくらみに触れる。
びくりと背をのけぞらせる。
「ファリア… もう君のぬくもりを離したくない…」
彼の愛撫で身を捩じらせる。
切なくて苦しい身体の疼きがじんわりと自分の中に拡がっていく。
シルクの布越しに乳首を吸われる。
彼はもどかしくなり彼女の身に付けているものを奪う。
ベッドの上に浮かぶ黒髪の乙女。
昼に付けたキスマークがまだくっきりと残っていた。
キスの痕を辿るだけでも可愛い声が上がる。
その声が響くだけで己が昂ぶっていくのが解る。
もう止められなかった―――
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(2005/6/12)
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