Never a one





     (注)このお話はビスマルク29話の頃のお話です。









ガニメデ星に侵攻してきたデスキュラを撤退させる事が出来たビスマルクチームに休暇が与えられた。


4人はそれぞれの故郷に帰り、休日を満喫。



ビルはアメリカ・テキサス州の実家に帰り、進児も東京、リチャードもスコットランドの城に帰っていた。




そのリチャードは両親と共に時を過ごしていた。




彼の家はお城で築500年はあろうかという由緒ある建築物。





晴れた天気の中、リチャードは久々に愛馬キング号に跨り、遠乗りに出かける。

澄み渡る青い空の下、緑の中を疾けていく。




「はっ!」


心地よい風が彼の頬を撫でる。


リチャードはランスロットの領地を出て、隣のパーシヴァルの領地まで来た。


久々に来る緑の絨毯の中にある大きな樫の木。

キング号を休ませ、自分は樫の木の根元に腰を下ろす。


小高くなっているここからランスロットとパーシヴァルの領地が一望できた。



遠く空を見上げると5年前の想いが彼の心をよぎる。




あの日の二人は確かに想いが通じていた…


しばらく想いに耽っていると、空の向こうから曇天が近づいてくるのが見えた。

「雨が来そうだな…」


そう思い、馬に乗ろうとしたとき、にわかに大粒の雨が降ってきた。


こう強い雨だと無理に走る事は出来ない。


しばらく馬と雨宿りをする羽目に。



小雨になり、馬に乗った時、丘の下の道に一台の黒い車が止まる。


車から運転手が降りてきた。

「あの、リチャード=ランスロットさまですね?」

「えぇ。」

「大旦那様が是非にお会いしたいと申しまして…」

運転手とリチャードの視線は車の後部座席に向かう。

そこにいたのは貴族院議長であるローレン卿。

ここの領地を所有するパーシヴァル公爵の父親である。

これは断る事が出来ないと思い、馬の手綱を引いて、車の卿のところへ向かう。

「ご無沙汰しています。ローレン卿。」

「あぁ、久しぶりだね。」

笑顔でローレン卿は言葉をかける。

「久しぶりついでに少し寄っていかないかね?」

直に言われると余計に断れない。

「はい。お邪魔させていただきます。」


卿は車で、リチャードは馬でローレン城に向かう。


ランスロット城より更に古いローレン城は築1000年を越える古城。

大昔は砦だったため無骨なつくりだが内装はそうではなかった。





久々に訪れたローレン城は変わらない。

2年ちょっと前に彼女の父から肖像画を受け取った時以来。

彼が雨で濡れていたため、着替えを用意してくれていた。

着替えを済ますとローレン卿の書斎へと通される。


白髪に口髭の気品ある老紳士はリチャードを見据えて問いかけた。

「…2年前のことは息子から聞いている。」

「…そうでしたか。」

「しかし、君はそろそろ次のことを考えるべきではないのかね?」

「次と申しますと?」

「婚約の事だ。」

「……。」

リチャードは答えない。
それでも卿は問いかけをやめない。

「あれからもう5年だ。葬儀も3年前にしている。いい加減諦めて、新しい婚約者を決めるべきではないのかね?」

「僕は…まだ…そんな気になれません。」

彼は本音を告げた。

ふうと溜め息をつき卿は話を続ける。

「しかし君にはいくつかの縁談の話が来ているはずだが?」

「父から何も聞いていません。」

「そうか。それなら近々、話があるだろう。」

「そうかもしれません。」

黙った二人だがリチャードがふと疑問に思ったことを口にした。

「何故、僕の縁談の話をご存知なのですか?」

「ああ、私は一応、貴族院の議長だからな。そんな話も噂などで耳にした。」

もっともな答えに彼も納得した。


その時、書斎のドアをノックする音。

「何か?」

「大旦那様。大奥様がお茶の用意が出来たからお越しいただきたいと。」

執事のジェファーソンがそう言いに来た。

「ああ、わかった。リチャード君も来たまえ。」

「はい。」



長い廊下の先の応接間に向かった。


ドアを開けると紅茶のいい香り。
卿の後ろに立つ彼の姿を見て、老婦人は微笑む。

「あら、お客様って…リチャード。リチャード=ランスロットだったのね。」

「えぇ、ご無沙汰しています。」

「それにしても3年で随分、大人になったのね。」

180センチの長身痩躯に成長した彼を見て、夫人は笑顔で告げた。

「そうですか?」

「そうよ。あの時はまだ少年だと思っていたけど、大きくなったものね。」

「もう僕も18歳になりましたから。」

「そう。生きていればあの娘も18歳なのね…」

3人は黙り込んでしまった。
その彼女がそばにいないのを妙に実感してしまったから。

メイド頭がお茶を運んできた。



「さあ、せっかくのお茶が冷めてしまうわ。」

アニーは笑顔を作ってお茶を勧めた。


たわいない世間話をして時を過ごす。

ローレン卿がリチャードに問いかける

「そういや今度、勲章授与式に出るそうだね。」

「はい。」

「君が立派になって父上のランスロット公も鼻が高いだろう。」

「そんな事は…」

リチャードは謙遜して言う。

「あなたが本当にあの娘の婿なら…」

夫人はふと呟く。
その眼の端に光るものがあった。。。






雨が上がった空はベルベット色に染まっていた。

「ご馳走様でした。」

リチャードは挨拶を済ませて、早々に城を去る。






そして、その夜

ロンドンから帰った父・エドワードに書斎に呼ばれたリチャードはあの話だとすぐわかった。


「リチャード。」

「はい。」

「お前に縁談の話が来ている。」

「そうですか。」

意外に驚かない息子に父は拍子抜け。

「今のところ、5人の令嬢が候補といった所だが…どうするね?」

リチャードは落ち着いて答える。
既に答えは決まっていた。

「僕はまだそんな気はありません。」

「何だと?」

「まだ…彼女の姿を確認してからでないと…」

「生きてるか死んでいるか解らないのにか?」

ローレン卿と同じように考えている父親にむかって本気で叫んでしまう。

「!!!  僕はまだ彼女が死んだなんて納得していません!行方不明なだけです!」

「お前…」

リチャードの拳は固く握られ、震えていた。

「僕は死んだなんて思っていません!周りが何と言おうと僕は…」

息子の想いがまだあの娘にあることに父は驚く。

しばらく考え、口を開く。

「解った。全て断っていいのだな?」

「…はい。」

「しかし一つ、約束して欲しい。」

「何ですか、父上。」

「25までには結婚しろ。…出来るだけ早く。メアリに孫を抱かせてやりたいからな。」

リチャードの母・メアリは最近病気がちで身体が弱っている。

静養しているとはいえ、安心は出来ない。

そのメアリに孫を抱かせてやりたいのは当然といえば当然だ。

「…わかりました。」

「…3日後の授賞式とパーティには必ず出るんだぞ。」

「それも解っています。」



3日後の授賞式とは英国王室から勲章を授与される式。

デスキュラを撤退させた彼の功績に対しての勲章。

まあ彼以外にも他の勲章を授与される人物はいるのだが。











この夜、授与式とパーティがあったため、ロンドンの屋敷に父と息子は戻る。


授与式の後のパーティは主催が女王陛下ということもあって華やか。

リチャードは早々に切り上げるつもりだったが知り合いや友人に捉まってしまう。
情報部の同期であるジャック=コートン中尉に話しかけられた。

「元気そうだな。」

「まあ、なんとかな。」

他愛のない会話でやり過ごそうとしていた彼に声を掛ける人物。


「やあ。リチャード。」

情報部の先輩で同じ貴族のロニー=ヘイワード子爵だった。

「ご無沙汰してます。ヘイワード少佐。」

「お前も元気そうだな。」

「ええ、なんとか。」

「ちょっと、いいか?」

ヘイワードはリチャードを連れ出す。


男二人でバルコニーに出る。


「なあ、なんで誰とも婚約しようとしないんだ?」

「は?」

「まだあの娘が好きなのか?」

唐突な質問にリチャードは戸惑う。

「あの、何故、そのことをご存知で?」

「俺の妹の名前で縁談の話があったはずだが?」

「…そうだったんですか。」

その言葉で納得した。

「何でだ?」

問い詰めるヘイワードに答える。

「僕は…彼女が死んだなんて思っていませんから。」

「何故だ?!3年前に葬儀もしている。何故そこまで執着する?」

声を荒げるヘイワードに冷静に告げる。

「確かに3年前に彼女と母親の葬儀はした。…けれど中は空だ。
彼女は…死んでない。行方不明なだけだ…」

切なげな、その声にヘイワードはばつが悪そうになった。

「そうか…そこまでお前が言うのなら仕方がないな。」





そして帰り損ねたリチャードは何人かの貴婦人のダンスの相手をして、隙を見て早々に切り上げた。



2日後にはロンドンからランスロット城に戻った。

母をひとりにするのも気になっていたから。


しばらくは穏やかに休日を過ごしていたが
情報部からとんでもない連絡が入る。

アステロイドゾーンに向かったルヴェール博士が行方不明になったと。

直後、進児からも連絡が入った。

アメリカのビルと連絡が取れないらしい。

再び会う約束をして、彼は通信を切った。




母と父にそのことを話しに行くと、
悲しそうな笑顔をして母は大切にしていたペンダントをリチャードの首に掛けた。







再びビスマルクチームは戦いの場へと駆り出される。

ルヴェール博士を探すために。


けれど彼の胸には一つの決意があった。

   必ず彼女を探し出すと…













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あとがき(2004/8/19)

ネタを探してビスマルクのDVDの解説書を見ていた時に思いついた話です。

唐突過ぎたかなという感はあるのですが。

まあ彼も大変だったという事。

ちなみに彼の愛馬キング号は白いサラブレッドです。

この時、ドナテルロはメンテナンスに出ていたらしいです(笑)





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