memory
今は木星の衛星・ガニメデでビスマルクチームの一員として
侵略してきた異星人デスキュラを相手に、戦闘の毎日を過ごしている。
昨年末、クリスマスのころには東地区を治めていたドメス将軍と和解し合えたこともあり、
ガニメデ政府軍もビスマルクチームには一目、置いてくれるようになった。
そのこともあり、少しは毎日の戦いが楽になるかと思いきや、逆に仕事が増えた気がするのは気のせいか?――――
2085年1月30日――
今日は僕、リチャード=ランスロットの19歳の誕生日。
戦いに明け暮れる日々の中、ベッドに入る瞬間に恋人ファリアを思い出す。
彼女の優しい微笑みと可憐な声を。。。。
今年は彼女からのカードも「Happy Birthday!!」の甘い声もKissもない淋しい年だと実感する。
進児・ビル・マリアンは気を使って僕にお祝いの言葉をくれたのは嬉しいサプライズではあったが―――
来年の20歳の誕生日に君はそばにいるのだろうか?
早く戦争を終わらせることが一番いいことだと僕自身も良く解っている。。。。
*****
―――――9年前
ファリアと僕は同じパブリックスクールの男子部女子部に所属していた。
男女合同のイベントも多いが、普段は別々の棟で授業を受けている。
僕の誕生日は土曜。
ファリアはどうするんだろう・・・・
授業とフェンシングと馬術の部活を終え、帰宅すると・・・・
両親と祖父母たちが笑顔で出迎えてくれた。
あっけにとられている僕を前に父が開口一番。
「リチャード。10歳の誕生日おめでとう。
私が想像していたより、ずっと立派な10歳の跡取りに成長してくれた。
…嬉しいよ。」
父上は普段、少し怖い顔をしているんだけど、喜びが大きいのか涙目になっている。
横にいる母上も同様に。
「リチャード。ホントに丈夫で立派な子になってくれて本当に嬉しいわ…」
「母上…」
僕を抱きしめてくれる母は涙していた。
「わしも嬉しいぞ。あんなに小さかった赤ん坊のお前がこんなに大きく成長してくれたんだからな。」
いつも厳格な祖父までもが頬を緩め、僕に微笑みかけてくれる。
「えぇ。ホントに。文武両道でいい子になってくれて、私も…」
祖母も潤んだ目で僕に微笑みかけてくれる。
僕はあまり丈夫でない母から生まれたから、心配していたんだと、のちに聞いた。
だからこそ僕が10歳になった時、標準以上に育ったのを見て、両親たちは安堵していたんだと。
「あぁ、父上。そろそろ…」
「そうだな。」
僕には何が何だかわからないけど、祖父と父の間で何か合図していた。
「さ。行くぞ。」
「へ?何処に?」
両親と祖父母と共に向かったのはたまにしか使わないパーティルーム。
僕がまさか…と思っていた。
使用人がドアを開けると―――
数十人の人たちが一斉にこっちを振り向く。
「お前の誕生日を祝うために集まってもらったんだ。」
父が笑顔で僕に言う。
「ぼ、僕のために?」
「あぁ。」
中にいたのは父や母の友人の貴族たち、僕の学校の友人たち――
皆口々に「おめでとう!」と言ってくれる。
「さぁ、主役はこっちだぞ。」
父に連れて行かれると、ソファには大量のプレゼントボックスの山。
「これ、僕に?」
「あぁ、もちろんだ。」
それから僕がソファに座るとひとりひとり挨拶に来てくれる。
嬉しい気持ちでいっぱいになる――
しばらくして、パーシヴァル一家が入ってくるのが見えた。。。
父たちに挨拶した後、僕の下へやってくる一家4人。
「やぁ、リチャード君。10歳の誕生日おめでとう。」
パーシヴァル伯爵はにっこりと笑顔でプレゼントを差し出してくれた。
「ありがとうございます。パーシヴァル伯爵。」
僕は両手で箱を受け取り、ソファに置く。ふと顔を上げるとファリア。
今日の彼女は可愛いバラ色のワンピース姿。
レースとリボンで飾られていて、まるでビスクドールのように可愛らしい。
「リチャード。10歳おめでとう。私からはこれ…」
小さめの箱だったけど、僕は両手で受け取る。
「ありがとう、ファリア。」
僕が満面の笑顔で言うと、はにかむ彼女。
そんな彼女に彼女の母親が耳元に何か囁いていた。
うなずくと僕に1歩近付いてきた。
「もうひとつ、いい?」
「え、あ。うん。」
そう言うと、彼女は僕の耳元にキスしてくれた。
しかも両方に。
ちゅっと言う音が耳に響く。
恥ずかしさが少しあったけど、嬉しくて耳まで赤くなるのを感じた。
そんな僕たちを見て、周りの大人たちが拍手する。
少し離れたファリアも照れくさげに頬を染めていた。
*****
――そういや、あの10歳の誕生日で一番嬉しかったプレゼントはファリアからのキスだったなと思い出す。
12歳で大学に行ってから、約5年ほどはほとんどまともに会えず、誕生日プレゼントとカードが送られてきたっけ。。。
昨年は彼女がまだウィーンの音楽院にいたからな。
やっと彼女が英国に帰ってきたのに、今度は僕が地球の外にいる訳だし。
思わず切なくなって、溜息が出た。
淋しい19歳だな、僕は。
みんながいるのが救いだな。
僕はビスマルクマシンのコクピットの窓から暗い宇宙空間を見つめて、また溜息をついていた。
fin
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(2012/01/31)
ひ、久々にショートっす。
2085年版を過去に書いてたけど、彼目線で描いてなかったので。。
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