kitten -8-
次の夜も、同じように深夜に書斎で会い、話をする二人がいた。
リチャードは猫としか思っていなかったから、
リリーに色々と話しかけていた。
政治的なことはもちろん、個人的な悩みまで。
それに…猫の前で着替えをしていたり、一緒に風呂に入っていたことを思い出すと
少々恥ずかしかった。
逆にファリア姫は意識しすぎないよう、心がけていた。
猫であったころに彼のことは色々と見知ってしまっていたから…
だからこそ、自分のことを話すようにしていた。
リチャードは生まれた時代のギャップをあまり感じていなかった。
およそ80年近く、実年齢は離れているが彼女自身は16歳になった直後だったという姿。
イマドキの貴族の娘なんかより、全然スレてもいないし、むしろ清らかさを感じる。
慎ましく大人しい印象を感じていた。
それでいて、内に潜む強さも…
夜毎に彼女に惹かれていく皇太子。
****
皇太子がルヴェール邸に来て1週間が経った。
すっかり、リリーよりファリア姫のことを考えてる時間が増えている。
午後3時のお茶の時間、ソファで惚けているいるリチャードに声をかけるルヴェール公爵。
「殿下。どうかなさいましたか?」
「あぁ、ルヴェール公…」
前とは違う気力のなさを感じた。
「殿下、ひょっとしなくても、ファリア姫のことをお考えかな?」
「え、あ…」
言い当てられた彼は頬を染めていた。
以前の皇太子ではないと、公爵は理解した。
ソファに腰を下ろし、話しかける。
「ずっと、真夜中に逢う、ファリア姫のことを思い出されておいでか?」
「う、まぁな。」
彼にしては珍しく素直に少々気恥かしそうに返事する。
「猫のリリーより、人間のファリア姫をそばに置きたくなられたのでは?」
「ひょっとして、公爵の策謀か?」
「いやいや、私はあなた方に幸せになっていただきたいだけですよ。
それに…」
「それに… 何だ??」
「殿下に幸せな結婚生活を送っていただければ、国も安泰になりましょう。
だからですよ。」
ルヴェール公が言いたいことが解った気がした。
国を治める者が不幸せな結婚生活を送っていては
人間性のない統治になるだろうと。
だからこそ、真実、愛せる女性との結婚をして欲しいのだと。
「ルヴェール公。
頼んでいいか?」
「何をです?」
「彼女を猫から人間に戻すことを。」
その言葉を待っていた公爵。
「…私は了解いたしました。
しかし、ファリア姫のお気持ちを再確認いたしましょう、今夜。」
「あぁ、そうだな。」
*****
――その夜中
書斎に3人の姿があった。
リリーは人間のファリア姫に戻っていた。
ただし、まだ猫耳としっぽが残っている。
「ファリア姫、殿下のお気持ちは固まりつつあります。」
「え…?!」
「あなたに好意を持っておいでです。」
目の前に立つ皇太子に視線を戻す。
「殿下、本当ですの?」
「あぁ。リリーは…もういなくなるのは淋しいが。
けど、君にそばにいて欲しい。
ダメかな?」
頬を染めたリチャードが手を差し出す。
「殿下…はい、私でよろしければ。」
そっと伸ばされた手を取る。
ほっと安心したルヴェール公。
「ようやく、リリーがファリア姫に戻ることが出来ますな。」
「えぇ…でも、本当に戻っていいのかしら?
殿下にもルヴェール公にもご迷惑では?」
「いいや、大丈夫だ。
しかし、まだ少しお時間をいただきたい。」
「「え?!」」
二人はルヴェール公を見やった。
「どういうことだ?公爵。」
「実は完全に人間の姿を取り戻すためには満月の光の力が必要でしてな。
それに場所はここではなく、別邸にて行うことが肝要ですぞ。」
「場所?」
「はい。まっすぐに月の光が刺さる場所。
それでいて、人が来ない、遮るものがない平原。
当家の別邸が国の南にありますでな。
別邸の前は広い平原の丘ですから、ちょうどいい。」
「そうなのか…ファリア姫、頼めるか?」
「勿論ですわ殿下。
でも…本当に私でよろしいのですか?」
「あぁ、君を大切にするよ。」
にっこりとほほ笑みをファリア姫に向ける。
「はい…」
「で、いつになる?」
「今日から4日後の満月の夜になります。
道具などの準備は整っております。
あとは時満ちるのを待つのみでございます。」
「僕はどうすればいい?」
「…殿下はもう、城に戻られる方がよろしかろう。
陛下も王妃様もご心配されておいでですから。」
「そうか、そうだな。
それに父上に婚約解消をしていただかなければ…」
「そのことでしたら、ご心配なく。」
「どういうことだ、ルヴェール公?」
「実は殿下をこちらにお連れする時に陛下にお願いしておいたのです。
『殿下はいつ元の状態にもどられるか解らない。
婚約者の女性を待たせるのも申し訳なかろうと、だから解消して下されと。』な。」
パチパチと手を叩くリチャード。
「いや、実にすばらしい策士だ。さすが、賢者ルヴェール公。」
少々照れくさげな表情を浮かべる公爵がいた。
「では…あと4日なれば、せめてあと2日はここに居させてくれまいか?」
「かしこまりました、殿下。
ファリア姫もよろしいかな?」
「はい…。よろしくお願いします。」
ルヴェール公とリチャードに頭を下げるファリア姫がいた。
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(2013/05/17+19,11/3)
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