Between -2 -
本屋を出た後は、メンズのブランドショップへと足を運ぶ。
いつも使っているブランドなので、買うものも ほぼ決まっていた。
「えっと…」
陳列された商品を見て、彼は手に取っていく。
「こっちは10枚っと、こっちが…」
商品を選んでいる彼に声をかけたのは、店主のエブレ。
上背のある、品のいい紳士。
すでに何度も来店しているので、顔なじみ。
「いらっしゃいませ、サー・ランスロット。」
「あぁ。Mrエブレ。」
声の主を一瞥する。
「本日は何をお求めで?」
「今日はアンダーウェアをね。
長期間、マシン内の事もあるし、洗濯出来ない日もあるから。」
彼の任務を聞いていたので納得のエブレ。
「さようでございますか。任務、御苦労様です。」
「こうして皆が、平和に暮らしていられればいいんけどな。」
エブレと話ししながらも棚から商品を手に取っていく。
「サー・ランスロットとお三方のおかげでデスキュラによる被害は減っていると聴いております。」
「そう言ってもらえるのはありがたいんだか、撤退させるまでは終われないからね。」
「左様でございますな。」
リチャードの手には大量の商品。
「すまないが、今回はこれだけ頼むよ。」
「かしこまりました。」
彼が手にしていた商品を受け取る店長。
会計をカードで済ませ、店を出る。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」
「あぁ、また。」
リチャードは紙袋を手に店を後にした。
しばらく歩いて、思い出し、すぐに引き返す。
「店長、すまない。」
「はい?サー・ランロット。何かお買い忘れでも??」
「実はそうなんだ。」
スキンケア用品の棚に近づき、いくつかの商品を手にする。
「ローションとウオッシングフォームも頼めるか?」
「は、はい、かしこまりました。」
慌てて店長は商品をそろえる。
「あっと、ローションは2本で。」
「承知しました。」
スキンケア用品を買い足し、彼は再び店を後にした、
繁華街をひとりで歩く。
ブランドショップが立ち並び、ショーウインドウ越しに 女性もののドレスやアクセサリーが目に入る。
「あ…」
ふと、ある思いに駆られるが、かぶりを振って断ち切る。
「今は…」
思い出すと切なくなるので、その場を離れる。
足は官舎へと向かう。
*****
一方、その頃の進児はマリアンのショッピングに付き合って、
大量の紙袋と箱を手に叫んでいた。
「いーかげんにしてくれよ〜!!」
「いいじゃない。 マルスシティが地球以外では最先端なのよ!!
ここで買わなきゃ、遅れちゃうわ!!」
パリジェンヌらしく、ファッションに敏感なマリアンはここぞとばかりに買いまくる。
彼女がウィンドウを覗いている傍らで進児はため息をつく。
「はぁ〜。ビルの奴、上手く逃げやがって…
リチャードはマジで本屋か〜??
ビルはナンパだろうけどなぁ〜。」
ブツブツとひとりごちる進児がいた。
彼の手には紙袋がいくつもあった。
***
進児の読み通りビルはファーストフードショップとかで女の子に声を掛けまくっていた。
しかし、なかなか相手にされず、振られてばかり。
疲れを覚えた、ビルは官舎へと帰っていく。
官舎の入り口を入ってすぐのエントランスに受付がある。
ビスマルクチームのビルはもちろん、顔パス。
「あ。ビルさん、ちょうどいいところに。」
受付嬢のリシーヌが笑顔で声をかける。
最後にいい事あったかもと、ビルは一瞬、期待した。
「何だい?」
「あの…これ、リチャードさんにお届けモノなんですけど、
お願いできます??」
「はぁ!?」
思いがけない言葉に呆れかえる。
「結構、重くて…申し訳ないんですけど。」
相済まない様子の彼女の言葉を無碍に出来ないビルがいた。
「え、あ〜… しゃーねーな。
じゃ、明日、付き合ってよ。」
「…え?」
「非番じゃないなら、仕事終わりでもいいからさ〜♪」
笑顔で言いだしてきたビルに本気で申し訳ない顔を向ける。
「えっと、本当にごめんなさい。
明日の休み、彼氏とデートなんです。」
「…そーなの??」
渋々、荷物を持っていく羽目に。
「くっそ重てーな。リチャードのヤロー、何の荷物だよ。」
ちろっと配達伝票を見ると"Books"。
「マジか?? この重さ、マジ半端ねーな、アイツ。」
ビルが部屋に入ると、リビングのソファにリチャードが座っていた。
しかも新聞を読んでいる。
思わず、ムカッとしたビルが叫ぶ。
「おい!! てめ、リチャード!! 荷物お前あてに届いてるぜ!!
何でてめーで取りにいかねーんだ!?」
「あ、そうだったか。」
壁の時計を見ると18:10。
配達時間きっちりに届いていた。
「すまなかったな、ビル。」
ビルの手から、受け取りテーブルに置く。
あっさり、謝ってきたのでそれ以上は突っ込まない。
「え、あ。まー、いいんだけどよ。
何だよ、その重さ。」
「結構、買ったからな…
だから配達にしてもらったんだが。」
そんなやり取りの中、進児とマリアンも帰ってきた。
大量の紙袋と箱と共に。
その二人を見てまたビルは叫ぶ。
「うあ〜、お前らまで大荷物かよ!?」
「お前らもって…??」
進児が積まれた箱の影から返してくる。
「いや、リチャードの本の配達物、俺が運んだんだけど…
かなり重くてびっくりしたぜ。」
やれやれといった様子で、進児がマリアンの買い物の箱たちをソファに置くと
テーブルに置かれている段ボール箱を指さす。
「コレか?」
「あぁ。」
進児は箱を持ち上げてみる。
「本?? 重っ!!!! 」
「マジで重いだろう? 何冊、買ったんだよ、お前。」
リチャードに向かってビルは問いかける。
「え? あ…30冊ちょいくらいかな?」
「マジ?」
段ボール箱の梱包を解いていく。
中にはみっしりと本が詰まっていた。
「えっと、これが科学専門誌5冊だろ、宇宙物理2冊とコンピューター関連モノ4冊。
それにデバイス関連が3冊。あと…」
専門誌が多いので驚く3人。
「クラシック音楽関連、メンズファッション誌、それに文庫が10冊…ってところか?」
リチャードの趣味の幅に感心するも、叫ぶビル。
「だー!! マジで多いじゃねえかよ。いつ読んでるんだ??」
「手の空いた時とか、寝る前にだよ。」
さらりと返した。
「マジで本好き野郎だな。」
そう言われ、ふふん、とちょっと得意気なリチャード。
そこに入り込んできた、マリアン。
「でも私も買ったわよ♪ ビル。」
「へ??」
「ファッション雑誌3冊!!
流行に乗り遅れちゃうもの。」
パラパラと買ってきたファッション誌を読み始めると
ビルがマリアンの雑誌を覗きこむ。
「へ〜、可愛い女の子、多いなv」
「そりゃ、そうよ。
みんなモデルだもの。
でも本業じゃない人も多いのよ。」
「そうなのか?」
「この人はフィギュアスケート選手のオデット=ボーヌ。
こっちはテニスプレイヤーのアリス=ドロル。こっちのページはピアニストのファリア=パーシヴァル。」
リチャードは思いがけず名前を聞いて、一瞬、動きが止まってしまう。
「おい?? どうした? リチャード?」
それを進児は見逃さない。
「何だよ、リチャード。この3人の中に何かあるのかよ? 誰かのファンとかか?」
ビルがさらに続く。
「え…あ…」
どもるリチャードを見て、マリアンは気づく。
「確か…ファリア=パーシヴァルって英国・スコットランドの人よ。
それに年も…同じ18歳? って、事は知り合い?」
今まで、3人には話せずにいた事を話す機会だと覚悟を決めた。
「そ、そうだよ。
ファリアは、幼馴染で婚約者だよ。」
「「「は??」」」
思いがけない言葉に3人は仰天した。
はっと冷静さを取り戻した進児。
「お前、婚約者なんていたんだ?」
「って、ことはシンシアの事は遊びなんか?」
ビルが以前、いい感じだったと記憶している女の子の事を出してきた。
「否定はしない。
けど僕とファリアとの結婚が決まっているのは確かだ。」
「その… 家で決められた結婚なの?」
マリアンが少し小さな声で問いかけてきた。
彼の家柄を考えれば、当然のことかもと。
「いや。僕と彼女の気持ちがあるからだよ。
追加しておくと…恋人でもあるんだ。」
「そうなの?」
「マジか??」
ビルはマリアンの手の中のファッション誌のファリアを見る。
「へ〜… こーんな美人が許婚ね〜…」
マリアンの両脇から進児とビルが覗き込む。
黒髪のサファイアの瞳をしたスレンダーな美少女。
ブランドのドレスを着て、ピアノの前に佇んでいる全身像。
隣のページにはバストアップのグラビア。
モデル張りに美しい姿。
「へ〜、こんな綺麗な人がリチャードの恋人…」
進児も関心の目で見ていた。
「なんで今まで言わなかったの?」
マリアンが疑問に思った事を口にする。
「…自分から話す必要ないだろう?」
毅然とした態度で返す。
そんなリチャードを見て、鋭い突っ込みをするビル。
「お前…ひょっとして、この娘の事、マジで好きで
話すと思い出してしまうからなんて、言うんじゃねーだろーな??」
的を得た言葉に彼は頬を染めて固まる。
その様子に3人は確信した。
「こーゆー娘がタイプなんだ…」
再びファッション誌に見入る3人。
「タイプっていうか…幼い頃からそばにいたし。
気づいたら好きになってた。
恋の自覚は…11歳くらいかな?」
「そうなの?」
マリアンが雑誌から視線を外して、聞いて来た。
「初対面は、彼女の生後間もなくのころ…
僕が生後7カ月過ぎた頃らしいよ。記憶にあるのは3,4歳のころからかな??」
「へ〜、マジの幼馴染ってやつだな。」
ビルがテンガロンハットを指で押し上げて、
関心の眼を見せる。
「両親同士も友人同士だし。
父親はイートン校の先輩後輩から。
母親も女学校とかで。」
「は〜さすが。お貴族様だな。」
「僕と彼女はプライマリースクールが一緒で…そのあとは別々に進学したんだ。
その頃に自覚したんだけどね。」
懐かしそうに告げるリチャードの様子にマリアンが返していた。
「そうなんだ…そばからいなくなって 大切さが解るってことよね??」
指摘にうなずく。
「そんなとこだよ。彼女の事…」
3人はリチャードの嬉しそうな でも淋しげな顔を見て、得心がいった。
「それだけ、惚れているってことかな〜?? ははっ」
ビルの言葉に照れるリチャードがいた。
それは3人が初めて見る表情。
どれだけ彼が想っているのか… 推し量ることが出来るくらいに。
Fin
_____________________
(2015/04/12・13・22)
*あとがき*
去年に書いた原稿を加筆改稿しながら、打ちこみです★
実はこの後も話は続くんですが、今回は蛇足かなって事で、ここまでです。
to Bismark Novel
to Novel top
to Home