#22 WHEEL OF FORTUNE
夕方近くなり、ふたりはもうヤツが来る頃だろうと思い洞窟に入る。
「ファリア…大丈夫か?」
「暗いのは平気よ。」
「…そうか。
でも離れるな。」
「はい。」
彼は彼女の肩を抱いたまま、歩く…
一番奥にある黒い丘―
北の封印が解かれたせいで 活性化しているのか胎動していて不気味。
「気味悪いわね。」
「あぁ。」
二人の目が慣れた頃に聞き覚えのある声が響く。
「やはり来たか…」
「何ッ!?」
ペリオスが丘の上の宙に浮いていた。
「ふッ…ははは…」
「何がおかしい!!」
「せっかくこの私が慈悲で助けたやった命を捨てに来るとはな…」
「何だと?!」
「風の聖剣を持っていないお前には力はない。
そうだろう…
姫も良く解っているはずだ。」
冷たい美貌の男はにやりと微笑み、手を振るう。
男の念動力は
寄り添っていたふたりを引き裂き 岩壁に押し付けた。
「くうッ!!ファリア!!」
「あ…ッ! リチャード…」
屈辱的にまた磔にされてしまう。
「さて…そろそろ時間だ。
解き放った魔物の一番最初のいけにえだ。」
満足げな笑顔で男は嘲笑する。
「待って!!」
「んッ!?」
「ファリア…?!」
突然、彼女が声を上げたので驚く。
「お願い!! 私、死にたくない!!
助けて!! 何でもするから!!」
リチャード王子は彼女の裏切りに目を剥く。
「ファリアッ!?」
「くッ…はっはっは… この期に及んで命乞いか?
所詮は女だな。」
「お願い!! こんなに若くで…死にたくないのよ!!
美しく生まれたのに…もっと人生を楽しみたいのよ!!」
美貌の乙女の懇願にペリオスは舐めるような視線で見つめる、
「そうだな…そのまま殺すには惜しいほどお前は美しいな…」
「だから…お願い!!」
「その男を見殺しにしてもいいのか?」
わざと笑顔で男は尋ねる。
「ええ!!」
「ファリア!!君ってヒトは!!」
「ごめんなさい。リチャード。私は生きたいのよ。」
「ファリアぁああッ!!」
あまりの言葉にショックを隠しきれない。
先ほどまで可憐な乙女は自分の腕の中で微笑んでいた。
「くッ…くッ…く… これは面白いものを見せてもらった。
いいだろう。
お前はこれから私の女だ。
助けてやろう。」
戒めを解かれた彼女は彼を見つめた。
「ファリアァ!!」
「気安く呼ばないで。
その口、塞ぐわよ。」
彼女は彼のくちびるをくちびるで塞ぐ。
離した直後、声にならない言葉を告げた。
「えっ!? 今、なんて…?」
―「ア・イ・シ・テ・ル… エ・イ・エ・ン・ニ…」―
ペリオスの元へ駆け出す乙女。
「よしよし、お前は私のものだ。
お前の初めての男の末路を見届けてやろうな。」
彼女の黒髪の頭をなで、頬に触れてキスするペリオス。
満足げな笑顔でリチャードを見つめる。
「お前の聖剣も女も私のものになったぞ!!」
「くッ…」
エメラルドの瞳は激昂していた。
笑いながらペリオスは風の聖剣を鞘から引き抜く。
振りかぶり黒い丘に向かって切りかかる。
次の瞬間―
丘の上に血を噴いて倒れた乙女―
肩から胸にかけて切り裂かれていた…
「なッ!! お前!!」
怯んだ男の剣先に飛び込む…
白い肌に飛び散る鮮血…
美しかった白い身体を剣が貫いていた…
「うッ… !!」
くちびるの端からひとすじの血…
「貴様ッ!!」
戒められたリチャードの目に映ったのは信じられない光景。
「ウソだ!! ファリア!! ウソだあっ!!」
先ほどの言葉が耳に心に響いていた…
「愛してる…永遠に…」
彼の身体から白い炎が燃え上がった。
「何ッ!!」
ペリオスはその炎に怯む。
エメラルドの瞳は…灼熱のルビー色に変わっていた。
聖剣は男の手にあったが、掻き消えて彼の手の中へ―
「うおおおおッ!!」
怒りと悲しみに満ちた彼の全身から無数のかまいたちが生まれ、男に襲い掛かる。
シールドを展開したが遮ることなど出来ずに切り裂かれ、
一瞬でチリとなって散った。
封印も切り裂かれ、解かれてしまうが
魔物が出るまでもなく かまいたちに裂帛され
あっという間に魔物たちはチリとなり、消えていく…
はぁはぁと荒い呼吸を上げ、両膝を地に着けていたリチャードの瞳はエメラルド―
封印があった場所に横たわっていたのは
白い肌を血に染めた乙女だけ―
「…!! ファリア!?」
慌てて駆け寄り抱き起こす。
既に呼吸もなく真っ白のくちびるの端からひとすじの血―
美しい白い肌は鮮血にまみれていた。
「やっぱり…君は…僕にコレを取り戻させるために…
わざとあんな言葉で僕を裏切ったのか……??」
長いまつげに縁取られた瞳は開かない―
甘い言葉を囁いてくれたくちびるも…
「ファリア!! ファリア!!答えろ!!」
リチャードの白いマントと服は彼女の血で汚れていく。
「もういい。答えてくれないなら…
黄泉の国で君に問いかけよう…
君が黄泉で暮らすというなら…僕も行く。
君ひとりなんて…行かせない!!」
彼はいつものように抱き上げて、洞窟の外へ出て行く。
もうすっかり陽は落ちて 真っ暗な夜の海―
「君のいない世界なんて意味がない…
ずっと一緒にいると誓ったんだ。」
彼は真っ直ぐに砂浜を突っ切り波間へと入っていく。
暗い海はふたりを受け入れてくれる。
彼の金の髪が海中で揺らぐ。
両腕で抱きしめて、くちづけていた。
海面はまるで何もなかったかのように
弓のように細い月を映し、風も波も凪いでいた。
***
進児とマリアン、ビルたちが<テカニ島>に到着する。
上空から見ると島は形を変えていた。
いくつもの亀裂が入り、海水が入り込んでいる。
3人がリチャードたちが入った洞窟に入っていく。
「「「!?」」」
そこには何もなかった。
ただ壁と床一面に無数の裂断痕。
「一体…何があったんだ?!」
進児が壁の傷跡に触れようとして びくりとなった。
まるで電流が流れてきたみたいに感じた。
「どうした?進児??」
「進児様?」
「何だ??今の感覚??」
再び触れてみてはっきり解る。
コレをつけたのは兄・リチャード。
その痕から進児の指先に入り込んでくるのは
大きすぎる絶望と深い悲しみ―
「兄上…?!」
進児は地面に手を突いて、いつものように残留思念を読もうとする。
彼の脳裏に映りこむ真実―
「!? そんなッ!! 兄上!!」
あまりにも衝撃的でふたりに説明など出来ない。
何より、ファリアの亡き骸を抱き上げた兄の顔―
ふだん余り涙を見せない進児が滂沱していた。
「進児??どうした??」
彼の様子にマリアンも気づく。
「姉さま!? ねぇ…姉さま!! 返事して!!」
以前にも同じ状態を感じた。
しかし明らかに感じる空虚感。
「いやぁああ!! 姉さまぁああ!!」
ふたりの様子でビルも気づく。
「さっきのカード…
"THE DEATH" …死神… そんな!!」
ビルが進児とマリアンを支え、洞窟を出る。
砂浜で泣いていたジョーン。
「こんな…こんな未来なんて…」
満天の星空の下、泣き崩れた4人―
「兄上!! 死んでは…ダメだろう!?
女ひとり守れなかったからって… 国も俺達も捨てるのかよ!!
そんなのカッコよすぎるだろ!!」
進児の絶叫に海も風も波も…
何も答えない―――
END.
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(2005/12/12)
" WHEEL OF FORTUNE">運命の力 タロットカードの大アルカナのひとつ。No.10.
*あとがき*
いや〜長かったわ…
マジでこんなに長編になるなんて思ってなかったよ。
ラストシーンはちょっと悩みました…
かなり悲劇的に終わっちゃった…(涙)
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